一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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シンポジウム1
学校保健研究の原点にせまる―設立時の理念とその後の研究の展開から今後の方向性を探る―

コーディネーター:七木田文彦(埼玉大学),瀧澤利行(茨城大学)

キーワード:哲学・思想 調査研究 実践研究

[SY1-3] 学校現場から見る学校保健学会・研究のあり方~健康問題への対応の根拠となる研究を~

佐見由紀子 (東京学芸大学)

キーワード:学校教育の立場 理論と実践の交流 教員の学びの場の保障

1 .はじめに
 1990年~1992年の学部生,大学院生時代には,「学校保健研究」を読めば主要な先行研究の検討に役立つばかりでなく,学校保健に関連する最新の情報や子どもたちの抱える健康問題を専門的に学べると実感していた.1993年から学校に勤務するようになり,学校現場で次々と発生する問題の対応に役立つ情報を得たいと考えつつ,「学校保健研究」に目を通すようになった.しかし,期待することと研究テーマ,内容にはずれを感じるようになり,精緻に読むことがなくなってしまった.
 あらためて本シンポジウムにあたり,主に中学校で勤務する中で,判断や対応に苦慮した事例を年代に分けていくつか紹介した上で,日本学校保健学会の研究に期待することを述べたい.

2 .学校現場で対応に苦慮した事例
(1)1994年ごろ~学校結核検診について
 2003年以前に学校で実施されていたツベルクリン接種の判定結果において,学校医からの指示が果たして子どもの健康を守るために適切なのか.
(2)2001年ころ~スクールカウンセラー導入にあたって
 スクールカウンセラーを導入するにあたり,心理の専門家の見立てと教員の見立てのずれにどう対処するか,管理職,養護教諭,生徒指導部,教育相談係,学年との連携をどうすればよいか.
(3)2002年ころ~保健室登校児への対応について
 保健室が唯一の居場所となっている生徒が増加し,複数の生徒が保健室で過ごすことでトラブルが発生したり,担任や保護者の理解が様々であったりしたため,学校全体としてどう対応していくか.
(4)2003年ころ~教員のメンタルヘルスへの支援について
 メンタルヘルスの問題から病気休暇・休職をしている教員本人や家族を休暇中にどう支援するか,休職者の所属する学年や教科の教員への支援,休暇を終えた教職員が復帰する際の校内での支援体制をどう整えていくか.
(5)2005年ころ~被虐待児への対応について
 被虐待疑いの生徒について,校内での連携はもちろん,家庭支援センターや児童相談所との連携が難しい場合に学校としてどう対応を進めていくか.
 以上のような対応に苦慮した際には,医学,心理,福祉に関連した具体的な対応法についての書籍や雑誌を読み,
対応を考えてきたが,学校としてどうすべきかの判断には迷うことが多かった.改めて振り返ると,様々な領域の立場からの意見を踏まえ,教員や子どもの健康を守り,子どもの発達を促すために,学校教育の立場から,どう考え,
どう判断すべきかの根拠となるような研究内容を学校保健研究には求めていたといえる.また,研究がより精緻化され,「科学的」となったことで統計に関する知識と経験が不足する教員には容易に理解できない論文が増えている.教員にも理解できる,興味の持てる研究内容が求められる.理論と実践の交流をよりはかるため,研究者が教員や子どもの声にもっと耳を傾ける必要があるのではないだろうか.
 一方,自身の教員経験や,現任校での現職院生とのかかわりを通して,教員側にも問題があると感じている.それ
は,学校現場で抱える多くの問題に対し,実践場面ですぐに使える方法論を得るため,ハウツー本を手にはするが,「問題の本質は何か」といった根本的な問い直しをするために難読な研究論文や専門書を読むことを避けてきたのではないかということである.学校保健研究を批判的に読み,学校現場に必要な研究を求める声をもっと上げていきたい.
さらに,学会には,難解な研究論文を読み解いたり,現場の問題をいかに研究課題に引き上げたりすることができるよう教員に学びの場を保障することも期待したい.