[SEAL] 精神不調アセスメントツール(RAMPS)を活用した高校生の自殺予防の実践例—新潟県内高等学校養護教諭へのインタビュー調査から
Keywords:自殺予防、養護教諭、RAMPS
はじめに
自殺は10代で急速に増加する。精神疾患はこの年代で発症ピークを迎え、自殺の主要なリスク要因となっている。学校での精神疾患や自殺対策は子どもの命を守るために重要な課題であるが、その改善には次のような障害が残り、解決する必要がある。1)自殺の危機の高い子ほど相談を躊躇しがちである。これにより周囲の支援を何ら得られないまま自殺等の結末に至る者が少なくない。2)自殺のリスクや精神不調について、教員は何をどこまで尋ねるべきか分からないことが少なくない。また学校に指針や仕組みがなく、個々の経験や力量に頼らざるを得ない。これらによって子どもの自殺リスクを見過ごしてしまう可能性が高いということ。さらに自殺リスクに対して校内外での連携体制や説明等がスムーズでない例も課題である。発表者らはこれらの問題を解決し、若者の自殺リスクを発見し、早期に必要な対応と支援を促進することを目的に精神不調アセスメントツール(RAMPS)†を開発した。本稿では題目論文(北川, 2021)報告の新潟県内のRAMPS実施校10校中実施件数の多い2校の養護教諭へのインタビューから得た生徒の自殺リスクに寄与した例、その後の校内外での支援促進に繋がった実際の例の概要を記す。なお講演の際は現在までの全国の実施校から寄せられた実践報告も適宜交えて紹介する予定である(2022年度約60校で実施)。
RAMPSの実施が自殺リスクの発見や事後の支援に繋がった例
事例1:「全く問題のない」ように担任や養護教諭から思われていたが、RAMPSへの回答により自殺リスクが明らかとなった。RAMPSの自殺リスクに関する質問への回答をきっかけに、生徒は「はじめて自殺について養護教諭に伝えることができた」という。回答結果により自殺リスクが明らかにされたので、その後の校内での支援が進んだ。事例2:養護教諭は「なんとなく心配な生徒」と見ていた。RAMPSへの回答により自殺未遂歴があることが初めて明らかになった。保護者連絡や医療機関受診等の校内外支援が具体的に始まった。保護者には評価結果を提示して説明することで、理解が進んだ。RAMPSの回答一覧が、医療機関受診の際に医師に生徒の状態を説明する補助媒体として活用された。事例3:職員会議等で話題にあがる生徒ではなかったが、回答をきっかけに自殺リスクがあることが明らかになった。また検査をきっかけに生徒の抱える悩みを聞くことができた。実施後、生徒は以前よりも保健室に来て養護教諭と話すことが増え、生徒の援助希求が促進された。
まとめ
RAMPSを活用した精神不調アセスメントの実施が、複数の生徒の自殺リスクの発見や事後の対応に役立った。具体的には(1)養護教諭や教員の方で予想していなかった自殺リスクの発見に繋がったこと、(2)養護教諭が以前から心配に思っていた生徒の自殺リスクをRAMPSの実施により確認できたこと、(3)回答結果により、関係者との情報共有や理解を促し、その後の校内外での具体的な支援に繋がったことが、養護教諭から報告された。生徒の援助希求を促し、教員による見過ごしを防ぐというRAMPSの目的が一定の程度達成されたと考えられた。
†RAMPS:Risk Assessment of Mental and Physical Status(心身状態の評価)の略称。ツールの名称。心身不調に関する信頼性・妥当性が確認された評価指標を中心にタブレット端末等に搭載。生徒が一人でそっと回答をする1次検査、養護教諭や教員が結果を踏まえてより詳細に尋ねる面接を行う2次検査で構成。搭載システムによりリスクが即時評価され、自殺の危機等は段階に応じてリスクが可視化される。実践を通してシステムの改良を続けており、その例に高度リスク回答が検出された場合は即時関係者にアラート発出をし、学校全体での見守り補助や支援者である養護教諭等を孤立させないための仕組みの実装や、保健室での検診のほか、健康診断等での全生徒一斉健診の実施機能実装がある。ウェブサイト:https://ramps.co.jp
自殺は10代で急速に増加する。精神疾患はこの年代で発症ピークを迎え、自殺の主要なリスク要因となっている。学校での精神疾患や自殺対策は子どもの命を守るために重要な課題であるが、その改善には次のような障害が残り、解決する必要がある。1)自殺の危機の高い子ほど相談を躊躇しがちである。これにより周囲の支援を何ら得られないまま自殺等の結末に至る者が少なくない。2)自殺のリスクや精神不調について、教員は何をどこまで尋ねるべきか分からないことが少なくない。また学校に指針や仕組みがなく、個々の経験や力量に頼らざるを得ない。これらによって子どもの自殺リスクを見過ごしてしまう可能性が高いということ。さらに自殺リスクに対して校内外での連携体制や説明等がスムーズでない例も課題である。発表者らはこれらの問題を解決し、若者の自殺リスクを発見し、早期に必要な対応と支援を促進することを目的に精神不調アセスメントツール(RAMPS)†を開発した。本稿では題目論文(北川, 2021)報告の新潟県内のRAMPS実施校10校中実施件数の多い2校の養護教諭へのインタビューから得た生徒の自殺リスクに寄与した例、その後の校内外での支援促進に繋がった実際の例の概要を記す。なお講演の際は現在までの全国の実施校から寄せられた実践報告も適宜交えて紹介する予定である(2022年度約60校で実施)。
RAMPSの実施が自殺リスクの発見や事後の支援に繋がった例
事例1:「全く問題のない」ように担任や養護教諭から思われていたが、RAMPSへの回答により自殺リスクが明らかとなった。RAMPSの自殺リスクに関する質問への回答をきっかけに、生徒は「はじめて自殺について養護教諭に伝えることができた」という。回答結果により自殺リスクが明らかにされたので、その後の校内での支援が進んだ。事例2:養護教諭は「なんとなく心配な生徒」と見ていた。RAMPSへの回答により自殺未遂歴があることが初めて明らかになった。保護者連絡や医療機関受診等の校内外支援が具体的に始まった。保護者には評価結果を提示して説明することで、理解が進んだ。RAMPSの回答一覧が、医療機関受診の際に医師に生徒の状態を説明する補助媒体として活用された。事例3:職員会議等で話題にあがる生徒ではなかったが、回答をきっかけに自殺リスクがあることが明らかになった。また検査をきっかけに生徒の抱える悩みを聞くことができた。実施後、生徒は以前よりも保健室に来て養護教諭と話すことが増え、生徒の援助希求が促進された。
まとめ
RAMPSを活用した精神不調アセスメントの実施が、複数の生徒の自殺リスクの発見や事後の対応に役立った。具体的には(1)養護教諭や教員の方で予想していなかった自殺リスクの発見に繋がったこと、(2)養護教諭が以前から心配に思っていた生徒の自殺リスクをRAMPSの実施により確認できたこと、(3)回答結果により、関係者との情報共有や理解を促し、その後の校内外での具体的な支援に繋がったことが、養護教諭から報告された。生徒の援助希求を促し、教員による見過ごしを防ぐというRAMPSの目的が一定の程度達成されたと考えられた。
†RAMPS:Risk Assessment of Mental and Physical Status(心身状態の評価)の略称。ツールの名称。心身不調に関する信頼性・妥当性が確認された評価指標を中心にタブレット端末等に搭載。生徒が一人でそっと回答をする1次検査、養護教諭や教員が結果を踏まえてより詳細に尋ねる面接を行う2次検査で構成。搭載システムによりリスクが即時評価され、自殺の危機等は段階に応じてリスクが可視化される。実践を通してシステムの改良を続けており、その例に高度リスク回答が検出された場合は即時関係者にアラート発出をし、学校全体での見守り補助や支援者である養護教諭等を孤立させないための仕組みの実装や、保健室での検診のほか、健康診断等での全生徒一斉健診の実施機能実装がある。ウェブサイト:https://ramps.co.jp