国際開発学会第35回全国大会・人間の安全保障学会第14回年次大会

講演情報

一般口頭発表

教育と社会的包摂:多様性と平等の視点から

2024年11月10日(日) 15:00 〜 17:00 F305 (富士見坂校舎 305)

座長: 野田 真里(茨城大学)

コメンテーター: 野田 真里(茨城大学), 加藤 丈太郎(武庫川女子大学), 近江 加奈子(国際基督教大学)

15:30 〜 16:00

[2E210] ブータンにおける僧院の社会的包摂機能とジレンマ

*佐藤 美奈子1 (1. 京都大学)

キーワード:社会的包摂、僧院教育、社会福祉、英語教育、ブータン

1.研究の背景と目的 
  ブータンでは,17世紀より続く僧院教育と1960年代に導入された学校教育が併存し,前者はチベット古典語チョケ,後者は英語を教授言語とする.そのため僧院教育を受ける子どもは英語を習得する機会が十分ではなく,実質英語で機能する社会経済活動への参加が困難となっている.僧院で育つのは,貧困家庭や虐待家庭の出身の子ども,学校教育を退学した少年たち等,行き場を失った子どもたちである.社会福祉制度が十分でないブータンにおいて僧院は,子どもの生活と(再)教育の場となり,「社会的包摂」の機能を担う.本研究の目的は,僧院教育の現状を明らかにし,現代社会に必要な基礎教育を受ける権利をすべての子どもたちが享受できるよう然るべき機関に働きかけることである.
2.調査  
  2023年から2024年にかけ全国の僧院10件を訪問調査し,僧院の管理者と村の責任者,僧院と尼僧院を統括する中央僧院と尼僧協会の責任者らにインタビューをおこなった.僧院の地域の14校の小学校を訪問し,学校責任者と現場の教員にインタビューをしたほか,僧院教育を経て現在,伝統医師を目指す若い尼僧らにも話をきいた.
3.調査結果と得られた知見  
  調査からは第1に僧院における英語教育の現状は,政府の経済支援を受けるドゥク派カギュ派とそれ以外で異なること,第2に村寺を維持するために村が貧困家庭に対して経済支援を申し出,代わりに子どもを村寺に入れる取引が慣例化しており,僧院にとってそれがひとつの「リクルート」となっている現状が明らかになった.第3に,伝統医大へ進学した若い尼僧らはいずれも普通教育で基礎教育を受けており,それが新たな未来を拓いていた.将来どのような道を選択するにせよ,すべての子どもに現代的な基礎教育を受ける権利を確保することが緊急の課題である.「僧院から子どもを奪わない」(杉本2000:56)ことを理由に留保されている,教育の義務化は必須の条件である.

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