第55回日本脈管学会総会

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特別講演

特別講演2

Thu. Oct 30, 2014 11:30 AM - 12:00 PM 第2会場 (アイシアター)

座長: 重松宏(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター/山王メディカルセンター 血管外科)

11:30 AM - 12:00 PM

[SP-2-1] 脈管疾患への数理科学的アプローチ

水藤寛 (岡山大学大学院 環境生命科学研究科)

 本講演では、数学・数理科学の立場から、臨床医学の様々な分野との協働を進めている取り組みを紹介する。我々は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業の一環として、数学・数理科学と諸科学の協働を推進する研究領域に属している。その中で我々のチームは臨床医療を協働相手とし、数理科学の立場から何らかの貢献ができないかを探っている。数学・数理科学は諸科学の基礎とされてはいるが、物事を抽象化することを指向するその性質から、現実の問題に対しては役に立たないのではないかと思われがちかもしれない。しかし、抽象化とは、「本質は何か?」を追求することであり、それが現実の問題に役立つことも少なくない。
 医療分野においては血行動態について数学的アプローチを導入し、大動脈の形状と血流の様相、及びそれに由来する壁面応力の分布についての関連性を調べてきている研究を紹介する。大動脈の形状の個人差を表現するのは一通りではなく、どのように形状を表現するかによって、捉えられる特徴は異なる。医療上の疑問は“血管形状という形態の違いが結果的に血行動態の差となり、最終的に壁にかかるストレス(壁面応力)分布の違いを生じ、最終的にその動態が大動脈瘤などの疾病の発生や心負荷の増大などに相関していくのか”ということであろう。そこで我々は、大動脈の中心軸を定義してそれを3次元空間における曲線と捉え、その幾何学的性質と壁面応力分布の関連性を調べている。空間曲線の性質については、微分幾何と呼ばれる数学の分野で古くから研究がされており、様々な特徴付けがされている。その中で、曲率と捩率の概念は重要である。また、粗視化を工夫することにより、大域的な特徴と局所的な特徴を分離して表現することを試みている。そのようなシンプルな特徴量から将来の病態を推測するアルゴリズムが構築できれば、臨床現場に何らかの貢献ができるのではないかと考えている。
 なお、このような臨床医と数理科学者の協働は誠に手間と根気の必要な作業である。データを受け取って、はいできました、という訳にはいかず、両者の緊密なフィードバックの積み重ねが必須になる。このような取り組みを通して、熟練医の方々が蓄積してきている経験的知識を客観的に説明する論理を構築し、それを体系化することを目指している次第である。