第55回日本脈管学会総会

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シンポジウム

冠動脈疾患の新しいエビデンスとチームアプローチ

Fri. Oct 31, 2014 9:30 AM - 11:10 AM 第1会場 (ホール)

座長: 落雅美(医療法人社団葵会 川崎南部病院 心臓血管外科), 一色高明(帝京大学医学部 内科学講座)

9:30 AM - 11:10 AM

[SY-3-4] 本邦におけるCABGのエビデンスと当院におけるLMTに対する外科治療の成績

荒井裕国, 水野友裕, 藤原立樹, 黒木秀仁, 八丸剛, 大井啓司 (東京医科歯科大学大学院 心臓血管外科)

 日本冠動脈外科学会の全国アンケート調査によると、本邦では2004年以降、初回待機CABGのOPCAB率が60%を超え、2013年には64.9%に達しており、SYNTAX trialのOPCAB率15%に比べ著しく高い。70歳以上が52.8%、80歳以上が12.3%を占めているにもかかわらず、OPCABの手術死亡率は0.82%(conventional CABG:1.34%)、Stroke発症率が0.75%(conventional CABG:1.34%)といずれも低い。このように本邦が欧米を凌ぐ質の高いOPCABを達成できている理由として、ハートポジショナー使用率(87%)、大動脈遮断回避率(71.6%)、超音波血流計やSPYシステムによる術中グラフト評価率(88%)の高さなどの複合的要因が挙げられる。一方で、PCI後の合併症(冠動脈閉塞・出血など)に対する緊急CABGの死亡率は13.8%(3枝CABGでは22.2%)と著しく高く、単独CABGの0.7%(80例)と症例数は限られているものの、その予後は不良であった。
 しかし、過去5年間の単独CABG症例数の全国推移をみると、2009年の10659例が、2011年には8990例まで減少した。その後2013年までに10815例に戻っているが、この時期にSYNTAX trialで3枝病変に対するPCIの限界が明らかとなり、2010年のガイドライン(ESC/EACTS・日循)でハートチームの重要性が明記されたことが、少なからず影響していると思われる。
 新しいガイドラインでは、同時にLMTへのPCIの適応が拡大され、昨今、積極的に行われる傾向にある。そこで、当院で行われたLMTに対する単独CABG121例(OPCAB率90%)の5年成績を解析したところ、全死亡率4.2%(SYNTAX PCI/CABG: 12.8%/14.6%)、心筋梗塞発生率5.6%(SYNTAX PCI/CABG: 8.2%/4.8%)、再血行再建率4.7%(SYNTAX PCI/CABG: 26.7%/15.5%)、脳合併症5.2%(周術期0%)(SYNTAX PCI/CABG: 1.5%/4.3%)、MACCE発生率12.0%(SYNTAX PCI/CABG: 36.9%/31.0%)であった。OPCABを基本としたLMTに対するCABGの遠隔成績は良好であり、LMTに対する治療の第一選択として妥当であると考えられた。
 本邦におけるCABGの標準的な治療レベルは高く、ハートチームを機能させて、個々の施設の内科・外科の治療成績に相応した適正なチームアプローチが選択されるべきである。