第55回日本脈管学会総会

講演情報

脈管専門医教育セッション

脈管専門医教育セッション

2014年10月31日(金) 16:00 〜 18:00 第1会場 (ホール)

座長: 林宏光(日本医科大学 放射線医学), 宮田哲郎(山王病院・山王メディカルセンター 血管病センター)

16:00 〜 18:00

[VAS-2] 2.大動脈疾患の病因遺伝子に関する最新の知見

森崎隆幸 (国立循環器病研究センター 研究所分子生物学部・臨床遺伝科)

 遺伝性大動脈疾患の代表はMarfan症候群であり、1991年にその原因遺伝子としてFBN1が同定された。その後、FBN1遺伝子がコードするフィブリリン-1はmicrofibrilを形成し血管等の弾性線維の必須成分であるが、血管系の分化・増殖調節に重要な役割を果たすサイトカインTGF-βの活性調節にも関与することが明らかとなった。さらに、類縁疾患の原因遺伝子としてTGF-βシグナル経路のTGFBR2/TGFBR1の変異が同定され、Marfan症候群とは区別すべき別疾患としてLoeys-Dietz症候群が提唱されるようになった。その後、やはりTGF-βシグナル経路に属するSMAD3, TGFB2, SKIも遺伝性大動脈疾患を伴う全身性結合織疾患の原因遺伝子として変異が同定され、近年、遺伝性大動脈疾患の病因としてのTGF-βシグナル異常の関与が明らかとなり、losartanなどTGF-βシグナル調節作用のあるARBがMarfan症候群やLoeys-Dietz症候群の動物モデルで治療効果のあることが示され、現在、臨床試験が実施されている。加えて、これまでに、遺伝性大動脈疾患の病因遺伝子として、COL3A1(血管型Ehlers-Danlos症候群)、ACTA2MYH11などコラーゲンタンパク質あるいは平滑筋収縮タンパク質をコードする遺伝子の変異も同定されている。こうした遺伝学的知見により、Marfan症候群の診断基準(新Ghent基準(2010))では臨床所見に加えて遺伝学的所見が重視されるようになっている。また、マルファン疾患ならびに類縁疾患のみならず、他の身体所見を伴わない非症候群性大動脈疾患を含めて、原因遺伝子の同定により、疾患分類、付随する合併症への対策、家族の疾患管理が行われるようになっている。本セッションでは脈管専門医として知っておくべき大動脈疾患の病因遺伝子に関する最新の知見とそれに基づく疾患の診断鑑別、さらに、疾患克服に向けた今後の展望について紹介する。