[口演1-5] 嚥下障害・重度褥瘡のある入居者の軌跡
胃瘻から3食経口摂取に至るまでの看護支援
【背景】急性期病院で重度嚥下障害と診断され胃瘻増設し、入院中に重度褥瘡形成した状態で、高齢者施設に入居した70歳代男性。嚥下訓練、褥瘡処置など日々のケアを継続した結果、経口摂取可能、重度褥瘡がほぼ完治した。【目的】経口摂取可能・重度褥瘡の改善に至るまでの入居~21か月間の看護実践を検証。【実践内容・方法】看護記録の振り返りによる事例研究。対象者が特定できないよう倫理的及びプライバシーに配慮し、所属組織の倫理委員会の承認を得た。A氏は要介護5で身体活動レベル低いが、重度褥瘡がありBMI13.94、ALB値3.0と低栄養で、胃瘻からラコールNF半固形1800Kcalと高めのカロリー設定。妻より「食べられるようになって欲しい」と強い希望があったが、喀痰多く嚥下訓練はできない状態。褥瘡はDESIGN分類D4でポケット形成あり、まずは褥瘡治療に専念。入居9か月後に喀痰が減少してきた為、在宅医に嚥下訓練を申し出て、間接嚥下訓練を積み重ね、入居13か月後にはエンゲリードが摂取可能となった。ゼリータイプであれば経口摂取への置き換えを目標にできると考えた。しかし1回分を置き換えるとしても600Kcal分の摂取は難しいと考え、在宅医にカロリー減量を相談したが、A氏の標準体重には10Kg以上足りないためカロリー減量許可は下りなかった。入居後体重は概ね変わらなかったが、8か月目以降月1Kgペースで体重が増加している事実を伝え、褥瘡はポケットが塞がり縮小したため身体が栄養を吸収してきていると看護師の考えを在宅医に伝え、採血での評価を依頼するとALB値4.1で、カロリー減量許可が得られた。日中に300kcalを目標に栄養ゼリー摂取を開始すると、舌苔や口腔内汚染が改善し食べる口への変化が顕著に見られた。それに伴い嚥下機能回復が進み、19か月後には3食全て栄養ゼリー摂取に置き換えられた。しかし、目を閉じたまま反射的に嚥下するA氏の様子から、更に食べる楽しみを取り戻してもらえるようミキサー食へのレベルアップを目指し、状態を見ながら徐々に置き換えを図った。ミキサー食摂取を開始すると、目を開けて摂取することが増え、一品一品異なる表情の反応が確認できた。【結果】21か月後には3食ともミキサー食に変更でき、褥瘡はDESIGN分類d2まで縮小した。【考察】急性期病院で重度嚥下障害と診断され誤嚥性肺炎ハイリスクで、栄養補給は胃瘻から注入を継続するしかないと当初は思っていた。しかし、本人のできる機能を更に向上して、より良い状態に導けるよう目指す方向性を在宅医に伝えて協力要請した事でカロリー減量許可が得られ、それが大きな転機となり、経口摂取への置き換えが進み、3食経口摂取可能・栄養状態の改善から褥瘡改善につながったと考える。【実践への示唆】今回の事例を通し、できるかできないかではなく、どのようにしたらできるようになるかを考え、今後一人でも多くの高齢者の生活の質向上を目指していきたい。