[口演48-1] 高齢患者本人への病状説明の実施とせん妄発症の関連性の検証
~病状を知らずに治療を受け、不安な時間を過ごす患者たち~
【緒言】高齢化に伴い医療現場でも高齢入院患者、認知症患者が急増し、看護ケアのより一層の充実が求められる。入院による環境変化や病状からせん妄を発症する患者が増え、治療を安全に遂行する目的で臨床では、身体拘束や鎮静剤投与が実施される。しかし先行研究では、全身状態の悪化、入院期間延長などの有害事象が指摘されている。 せん妄発症因子は促進因子、直接因子、準備因子に分類され各々の因子が多くの研究者や臨床家により検証されている。しかし、患者本人への病状説明実施の有無がせん妄発症に及ぼす影響について検証された研究は少ない。本研究で病状説明とせん妄発症の関連性を明らかにする事は、臨床でのせん妄発症予防ケアの一助となると考える。【目的】「患者本人へ病状説明が実施された場合はせん妄発症率が低く、実施のない患者はせん妄発症率が高くなる」を仮説に、病状説明とせん妄発症との関連性を明らかにし、臨床でのせん妄発症予防ケアの一助となる事を目的とする。【方法】仮説検証型量的研究とする。研究対象者は、202X年X月~2ヶ月間に急性期病棟に入院した患者のうち65歳以上の186名(男性77名、女性109名)とし、看護記録、医師記録から患者本人への病状説明の実施有無、せん妄発症の有無について医師記録、看護記録より情報収集した。収集データを基にせん妄発症との関連性をロジスティック回帰分析し統計学的解析を行った。本研究はA市立病院倫理審査委員会の承認(承認番号R05-2)を得て実施した。データは暗号化し、個人が特定できないように配慮した。【結果】調査期間中にせん妄を発症した患者は37名で、33名(認知症診断あり15名)は本人への病状説明が未実施であった。ロジスティック回帰分析の結果、せん妄と認知症には先行文献が示す強い相関(p<0.001, odds ratio [OR]14.7, 95% confidence interval [CI] 6.37-34.0)が確認された。また、せん妄発症と病状説明にも関連性(p<0.023, OR0.32, 95%CI 0.12-0.86)が示された。患者本人への病状説明が未実施の場合は、せん妄を発症しやすい事を示す結果となった。【考察】医療者は、高齢患者や認知症患者に対し「判断力がない」「状況を正確に理解し決断する能力がない」など否定的なイメージを抱えている事が先行研究で明らかになっている。そのため入院時に本人以外へ病状説明を行うことや認知症を有する患者の場合には、治療の代理意思決定をしてもらう事が多い。病状を知らない患者が入院し、治療が行われる事で不安が増大し混乱を招き結果として、せん妄を発症すると推察される。患者本人への病状説明の実施は入院時から行うことができるせん妄発症予防ケアといえる。【結論】患者本人への病状説明が行われていない場合には、高齢患者や認知症患者は特にせん妄を発症しやすいといえる。患者本人への病状説明実施有無がせん妄発症因子の1つであるという仮説が支持される結果となった。