第55回(2024年度)日本看護学会学術集会

Presentation information

口演

口演55群 周術期の看護②

Sun. Sep 29, 2024 1:30 PM - 2:30 PM 第6会場 (大会議室A4)

座長:塚原 大輔

[口演55-6] 術前訪問におけるナラティブ・アプローチ

手術看護への有用性と今後の課題

中村 朱里, 石井 辰, 岡田 佳子, 岡上 木綿子, 萩 勇貴, 岩崎 円香, 勝平 真司, 汐江 和泉 (赤穂中央病院)

【背景】 手術とは重大なライフイベントの一つであるが「まな板の鯉だからお任せします」等、医療者に全てを委ねる患者は多い。今回手術室勤務4年目を迎え、A氏との関わりから患者との信頼関係構築が手術への不安軽減になる重要性を再認識したと同時に、見えてきた今後への課題を踏まえ報告する。【目的 】 術前訪問を通し患者の不安軽減を図る手術看護の実践。【実践内容、方法】 患者紹介:A氏 58歳 女性 現病歴:類内膜腺癌 既往歴:高血圧 変形性膝関節症 卵巣ホルモン産生腫瘍疑い (開腹膣上部・両付属器切除術) 20XX年に残存子宮腟部切除目的で手術予定。事前に術中体位や麻酔内容等の不安を想定、専用パンフレットを作成。術前訪問はナラティブ・アプローチで実施。A氏は過去に、術中の疼痛や疼痛による麻酔方法の急遽移行を経験されたこと、手術を友人に打ち明けたこと、癌告知を受けた際の心情等を自由に語られた。不安という直接的な発言はなかったが、入院前までに情動焦点型コーピングを図られていたことが示された。その上でパンフレットを用い情報提供を行い翌日に手術施行。問題なく退室。3回に分け術後訪問を実施。良好な経過を辿り、予定通りの日程で退院された。本症例はA病院の研究倫理審査委員会の承認を得た。(承認番号20240328)【結果 】 ナラティブ・アプローチによりA氏自身の対処行動を共有。また情報提供を行いコーピングを強化、不安表出・軽減に努めることができた。【考察】 今回の症例を通して、ナラティブ・アプローチで患者が経験してきた昔話を担当看護師と共有する手法は、事前の対処行動を抽出し強化する機会であり、患者との関係性を向上させ、手術室という閉鎖的な環境下でも安心感提供と不安軽減をもたらしたとポジティブに受け止めている。術前に不安を汲み支援を行うことは、術中の代弁者という役割を果たす手術室看護師の強みであるが、初対面の術前訪問において、信頼関係の構築は難しく、個別に抱えた不安を抽出することは困難である。その為ナラティブ・アプローチを用いることは信頼関係構築に有効であった。しかしナラティブ・アプローチでは自身の聞き手としてのスキル不足から、患者の言葉を深く掘り下げられず、潜在的不安のシグナルを見逃したのではないかと考える。更にパンフレットにより問題焦点型コーピングを図ったが、患者の経験上既知の情報であり、不安軽減に働きかける効果は少なかった可能性がある。【実践への示唆】 精神的不安は身体的不調と同様に健康危機の一つである。今回手術に関する不安という危機緩和のため、術前訪問時にナラティブ・アプローチを用い有効性を実感した。しかしナラティブを引き出すことは、聞き手の感受性や会話スキルに委ねられる部分も多く、自身のコミュニケーションスキル向上を図り些細なシグナルを捉えることが今後の課題である。