第55回(2024年度)日本看護学会学術集会

Presentation information

ポスター

ポスター58群 意思決定支援②

Sun. Sep 29, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (展示ホール)

座長:中村 久美

[ポスター58-1] 終末期がん患者のスピリチュアルペイン

トータルペインとしてケアすることの重要性

黄檗 愛 (遠賀中間医師会おんが病院)

【背景】がん患者のスピリチュアルペインは、身体的、精神的、社会的な苦痛と複雑に関係、同時に存在しており、互いに影響しあっている。癌性疼痛の増悪により、スピリチュアルペインが増悪した患者にスピリチュアルケアを行った結果、疼痛の軽減に効果があった。【目的】終末期がん患者の苦痛とトータルペインの関連性を明らかにする。【倫理的配慮】患者の個人情報の保護に努め、当院倫理委員会の承諾を得た。学術集会で症例報告として発表することを家族へ書面で説明し、同意書を得た。【実践内容・方法】70代男性 胃癌術後再発、疼痛緩和目的で入院。入院後も痛みは増悪し徐々に麻薬も増量、患者は怒りを表出し、援助者も疲弊していた。痛みが落ち着いている時を見計らい訪室すると「誰もわかってくれない」と、患者は下を向いた。援助的コミュニケーションとして「○さんは誰もわかってくれないと思われているのですね」と、苦しみに焦点をあて反復を続けると「障害のある弟を置いて逝けない」と涙を見せ、孤独感や家族に対する心残りがあることを知った。問いかけを続けると、ライフレビューを語られ、最後には「妻になら弟を任せれそうだ」と微笑んだ。援助者には、情報共有を図り精神的負担を軽減することで、傾聴、共感、共にいることを重視したケアの統一ができた。痛みの増悪時には傍によりそうことで「居てくれると安心する」と、眠られることもあった。徐々に痛みは軽減し、妻へ思いを伝えれるように共に過ごす時間を調整した。最期は患者の希望で鎮静が開始となり、数日後永眠された。【結果】患者は時間性、関係性のスピリチュアルペインを生じていた。痛みの増悪は差し迫る死を連想させ、将来を失い、それは怒りとして表出された。また、怒りは他者との関係の断裂に繋がり、孤独をより強く感じ、それがまた痛みを増悪させる悪循環となっていた。援助的コミュニケーションを行うことで、援助者を「苦しみをわかってもらえた」といった理解者へと変容させただけでなく、思いは言語化されることで明確となり、自らの考えを整理することに繋がった。妻の存在に気付き思いを託すことができたことは、死後も続く希望、人生の完成へと繋がり、現在の意味が成立することで、穏やかに過ごす時間も増えた。ソーシャルサポートを強化し共にいたことは、患者の安心感へと繋がり、孤独により増強した痛みの閾値を上げた。【考察】患者のスピリチュアルペインは、その苦しみの意味を理解し、共にいてくれた援助者の存在により緩和され、それが長引く痛みの軽減に効果があったと考える。痛みを身体的苦痛として単一に捉えず、トータルペインの視点で包括的に捉えケアすることの重要性が示唆された。【実践への示唆】スピリチュアルペインが患者に与える苦悩を理解して、援助的コミュニケーションを駆使し苦しみを和らげ、最期までその人らしく生を全うできるよう支援していきたい。