[ポスター58-2] 終末期がん患者の倫理的検討を用いた意思決定支援
【背景】がん終末期の退院支援は、限られた時間のなかで患者・家族の決定を支える支援が必要であるが、療養の場の意向の相違がある場合その意思決定支援はしばしば難渋する。【目的】退院先に悩む患者と家族に倫理的検討を用いた意思決定支援を行い、本人が望む療養場所の選択ができたそのプロセスを考察する。【実践内容・方法】本稿は対象患者退院後に執筆したものであり所属長の許可を得た。対象者家族に対し、研究目的と個人情報の保護への配慮と情報の管理について、また、学術集会で実践報告として発表することを書面で説明し同意書をもって同意を得た。事例:50代女性、大腸がんstageⅣキーパーソンは夫(50代)。予後2ヶ月の告知を受けて在宅療養調整のため急性期病院からA病院に転院。患者は自宅で療養したいが仕事を休まず自分の介護をしようとする夫に不満を持ち、両親から実家に帰ってこいと誘いを受けて思いは揺れていた。夫は生活のため仕事は続ける意向があった。そこで、倫理四分割表を用いた情報整理と課題の明確化を行った。患者と夫との間で退院先の相違がある状態は、倫理原則の善行と患者の自律尊重とのジレンマがあり、患者の生活の質を低下させることが予測された。医療やケアチーム(以下医療チーム)が推奨する支援の方策として、患者は意思決定能力が十分にあるため患者の意思決定を基本としたうえで、医師は副作用の少ない抗がん剤治療を提案し、本人の意思表明が困難な場合の代理意思決定者、終末期の過ごし方や利用可能な介護サービスについて情報提供を行った。その後、情報共有―合意モデルを参考に、患者と家族の価値観を知るために対話を続けた。実家に退院する選択肢はなくなったが、退院先が決まらず、カンファレンスの調整が必要と判断した。患者と夫は、最期まで安心して療養できる環境を希望し、自宅ではなく緩和ケア病棟を希望した。医療チームは患者の意向とその選択を支持することができた。7日後患者は笑顔で緩和ケア病床へ転院しその2ヶ月後最期を迎えた。【結果】 倫理的検討を用いた分析により、医療チームとして推奨するケアや問題解決の方向性が明らかになった。情報共有―合意モデルのアプローチにより患者とその家族は、医療者から対話のサポートを受けながら、「最善」を見いだすことができた。以上のことからその人の尊厳や自己決定を尊重した意思決定支援を提供することができた。【考察】終末期がん患者の意思決定支援にジレンマを感じたとき、倫理的問題を医療チームで共有することでチームが推奨する方策やケアが明確化したと考える。対話による関わりは意思決定支援プロセスの意思形成支援となり、カンファレンスは意思表明の支援となった。【実践への示唆】退院支援における倫理的検討を情報整理のツールとして汎用的に活用することが今後の課題である。