第55回(2024年度)日本看護学会学術集会

講演情報

ポスター

ポスター6群 がんとともに生きる人と家族への支援

2024年9月27日(金) 11:15 〜 12:15 ポスター会場 (展示ホール)

座長:津村 明美

[ポスター6-6] 家族からの心理的支配におけるがん患者の意思決定

塚 久美子, 橋倉 尚美 (高槻病院)

【背景】がん患者は、家族の介護負担を配慮して治療や療養場所などの意思決定を行うことがある。しかし、夫婦間でパワーバランスの不均衡があり心理的安全性が担保できない中での患者の意思決定に医療者は倫理的葛藤を感じる。【倫理的配慮】本実践報告は、倫理指針対象外であるため倫理審査委員の受審は不要である。そのため病名、家族構成など個人が特定されないように配慮し変更・修正を行なった。【目的】心理的安全性が担保できない中で選択された患者の意思決定に対する看護支援の在り方を検討する。【実践内容・方法】50代のA氏は夫と2人暮らし。夫はパニック障害があり、A氏は夫の精神的安定を優先し自身の闘病生活を送ってきた。しかし、A氏の病気の進行に伴い夫は精神的な安定が保てなくなり、自傷行為やA氏が傾眠傾向になることを恐れ麻薬服用の中止を希望することもあった。A氏は、最期はホスピスで過ごしたいと医療者には語ったが、夫は妻を自宅で看取りたいとホスピスへの入院を承諾しなかった。状態が悪化していく中、これまでの生活を維持させようと闘病意欲を鼓舞する夫に対し、A氏は心身の疲弊を感じシェルターへの避難も検討するようになった。自立した排泄が困難となり、A氏と今後どこで過ごすのかを話し合う事になり、A氏は「家には帰りたくない。夫には言わないで。」と語った。医療者はA氏の心理的安全性に配慮し娘も交えて、療養先について話し合ったが、A氏は「家に帰りたい」と自宅退院を選択した。医療者は、A氏の選択が最善なのかと倫理的な葛藤が生じ、臨床倫理の4要素を基にカンファレンスを行った。①医学的な状況:自宅療養は、在宅医療を導入することで可能だが、家族の介護負担は大きい。予後は月単位。②本人の意向:医療者と夫に語る気持ちは相反するが、夫の気持ちに配慮した言動・選択しており、話し合った時点でのA氏の意思決定能力はあると判断。③QOL:夫の不適切なケアはA氏に苦痛を与えQOLを低下させる可能性がある。④周囲の状況:娘とA氏の兄夫婦は夫の介護支援が可能。カンファレンスの結果、医療者は心理的支配下での選択だとしても最期まで夫の気持ちに配慮したA氏の選択を尊重して、A氏が安全に自宅で過ごせることを最優先し、多職種で夫に退院指導を行うことになった。A氏は徐々に意思疎通・経口摂取が困難となり、内服は全て貼付剤へ変更、経口は氷片のみ可能とし、夫には不適切なケアによりA氏に苦痛を与えてしまうことを説明した。夫へ気持ちの辛さを感じた時は、いつでも支援することを伝え心理的支援に努めた。【結果】在宅医療を導入して、自宅へ退院となった。【考察・実践への示唆】倫理的な課題に直面した際、葛藤を抱くが、患者と「家族」のこれまでの「人生」の物語に目を向け、医療者としてどのように支援するのか話し合うことが重要である。