[OA-1-5] 上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対する装具療法をはじめとした複合的介入が奏功した一例
~ホースで作成した手指短対立装具の有用性~
【はじめに】脳卒中後の上肢麻痺に対してはさまざまな治療法が開発され,課題指向型練習やCI療法は,エビデンスの確立された治療法として代表的である.Morrisらは,CI療法の適応基準として随意的な手指の伸展が可能であることをあげており,これらの治療法の適応には手指機能が重要である.近年,動的装具としての上肢装具の併用を行った複合的介入が報告されている.しかし,上肢装具の作成には,材料のコストや装具の調整に時間を要するため,治療場面への導入が困難であるケースも多い.そこで,今回われわれは,脳卒中後上肢麻痺を呈した症例に対して,市販されている水道ホースを用いた手指短対立装具を作成し,複合的介入と併用した.その結果,上肢機能と麻痺手の使用頻度が向上し,症例からは麻痺手の使用に対して前向きな発言が聞かれた.その経過に考察を加えて報告する.
【症例紹介】症例は右内頸動脈,両側前大動脈閉塞後,左上下肢麻痺を呈した70代女性である.発症後32日目に当院へ入院となった.入院時のFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA-U)は55点,手指項目は7点と手指に優位な麻痺を認め,その影響からBox and Block Test(BBT)は5個,Action Research Arm Test(ARAT)は11点と,麻痺手での物品操作が困難であった.Motor Activity Log(MAL)では,Amount of use(AOU)は0.8点,Quality of Movement(QOM)は0.5点と,麻痺手の不使用が疑われた.高次脳機能面では,注意障害と軽度の半側空間無視を認めたが,日常生活に影響はみられなかった.FMAの下肢項目は29点,Functional Independence Measure(FIM)は運動項目46点,認知項目30点であった.症例からのデマンドとして麻痺手を使用した更衣動作の獲得が聞かれた.
【方法】初期評価時,手指の集団伸展が困難であり,衣服の着脱などの両手動作を行うことが難しくなっていた.そこで,ウェブスペースの確保を目的に,医師と相談・指示のもと,市販のホースを使用した手指短対立装具を作成した.装具は療法士の監視下での装着と,手指伸筋群に対する電気刺激療法,課題指向型練習との併用を行った.課題は,母指対立位での把持動作を目的としたブロックの移動や,麻痺手を使用した更衣動作練習等を段階的に行った.さらに母指の対立運動の随意性に合わせて装具の長さを調整した.作業療法介入は1日1時間,週7日,4週間継続した.なお,本発表について本人に口頭で説明し同意を得た.
【結果】上肢装具装着による有害事象はなかった.FMA-Uは61点,BBTは18個,ARATは29点と上肢機能は向上し,MALのAOUは2.7点,QOMは2.3点と麻痺手の使用頻度が向上した.FIMの運動項目は66点とADLは車椅子自走で自立となった.症例からは「服を着脱する際に左手を意識して使うようになった」との発言が聞かれた.
【考察】本症例は,手指に優位な上肢麻痺の影響から麻痺手を用いた更衣動作が困難となっていた.ホースを使用した手指短対立装具を併用した複合的介入の結果,上肢機能が改善し,ADL上での麻痺手の使用頻度と質の向上を認めた.脳卒中後上肢麻痺に対して上肢装具の併用治療を行った先行研究では,装具の使用感に合わせて上肢装具の調整を行うことで上肢装具の受け入れも良く,上肢機能の向上と生活における麻痺手の使用行動の変容を認めたと報告している.本症例においても先行研究と同様にホースを使用した手指短対立装具の併用が上肢機能に対して有用であった可能性が考えられた.さらに,市販のホースは,調整が比較的容易であり,安価であるため,適応となる症例も多いのではないかと考える.
【症例紹介】症例は右内頸動脈,両側前大動脈閉塞後,左上下肢麻痺を呈した70代女性である.発症後32日目に当院へ入院となった.入院時のFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA-U)は55点,手指項目は7点と手指に優位な麻痺を認め,その影響からBox and Block Test(BBT)は5個,Action Research Arm Test(ARAT)は11点と,麻痺手での物品操作が困難であった.Motor Activity Log(MAL)では,Amount of use(AOU)は0.8点,Quality of Movement(QOM)は0.5点と,麻痺手の不使用が疑われた.高次脳機能面では,注意障害と軽度の半側空間無視を認めたが,日常生活に影響はみられなかった.FMAの下肢項目は29点,Functional Independence Measure(FIM)は運動項目46点,認知項目30点であった.症例からのデマンドとして麻痺手を使用した更衣動作の獲得が聞かれた.
【方法】初期評価時,手指の集団伸展が困難であり,衣服の着脱などの両手動作を行うことが難しくなっていた.そこで,ウェブスペースの確保を目的に,医師と相談・指示のもと,市販のホースを使用した手指短対立装具を作成した.装具は療法士の監視下での装着と,手指伸筋群に対する電気刺激療法,課題指向型練習との併用を行った.課題は,母指対立位での把持動作を目的としたブロックの移動や,麻痺手を使用した更衣動作練習等を段階的に行った.さらに母指の対立運動の随意性に合わせて装具の長さを調整した.作業療法介入は1日1時間,週7日,4週間継続した.なお,本発表について本人に口頭で説明し同意を得た.
【結果】上肢装具装着による有害事象はなかった.FMA-Uは61点,BBTは18個,ARATは29点と上肢機能は向上し,MALのAOUは2.7点,QOMは2.3点と麻痺手の使用頻度が向上した.FIMの運動項目は66点とADLは車椅子自走で自立となった.症例からは「服を着脱する際に左手を意識して使うようになった」との発言が聞かれた.
【考察】本症例は,手指に優位な上肢麻痺の影響から麻痺手を用いた更衣動作が困難となっていた.ホースを使用した手指短対立装具を併用した複合的介入の結果,上肢機能が改善し,ADL上での麻痺手の使用頻度と質の向上を認めた.脳卒中後上肢麻痺に対して上肢装具の併用治療を行った先行研究では,装具の使用感に合わせて上肢装具の調整を行うことで上肢装具の受け入れも良く,上肢機能の向上と生活における麻痺手の使用行動の変容を認めたと報告している.本症例においても先行研究と同様にホースを使用した手指短対立装具の併用が上肢機能に対して有用であった可能性が考えられた.さらに,市販のホースは,調整が比較的容易であり,安価であるため,適応となる症例も多いのではないかと考える.