第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

2022年9月18日(日) 08:30 〜 09:30 第2会場 (Annex1)

座長:外川 佑(山形県立保健医療大学)

[OA-13-1] 口述発表:脳血管疾患等 13失語症患者の麻痺手に対するTransfer Packageの効果

今井 卓也1小林 昭博2 (1富岡地域医療企業団 公立七日市病院リハビリテーション部,2群馬医療福祉大学リハビリテーション学部)

【はじめに】Transfer Package(以下,TP) はConstraint-induced movement therapy(以下,CI療法)の構成要素の1つであり,Taubら(2013)の報告では,麻痺手の使用頻度向上に有効とされている.しかし,CI療法では,日常生活に支障のある高次脳機能障害は適応除外のため,失語症患者の報告は少ない.今回,失語症患者に対してTPを実施したことで,目標とした排泄と整髪で麻痺手の行動に変化を認めたため,報告する.
【対象】左視床出血と診断され,右上下肢の運動麻痺と失語症を呈した70歳代女性.17病日に回復期リハビリテーション病棟へ入棟し,作業療法を開始した.Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(以下,FMA)は20/66点,WAB失語症検査は失語指数70.9,分類はウェルニッケ失語・健忘失語であった.49病日にはFMAは53/66点へ改善したが,Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC)で挙がった排泄と整髪では麻痺手の使用は乏しく,食事も非麻痺手を使用していた.
【方法】シングルケースデザインのBAB法を用い,各期間は25日間とした.効果判定は,各期間5日おきにFMAと,ADOCで挙がった排泄と整髪をMotor Activity LogのAmount of Use(以下,AOU)・Quality of Movement(以下,QOM)を用いて評価した.A期は標準的作業療法(関節可動域練習,課題指向型練習,日常生活動作練習,家事動作練習)を実施,B期は標準的作業療法とTPを実施した.TPは行動契約,モニタリングの促進,問題解決技法の指導に留意した.失語症を考慮して目標共有はADOCを用い,麻痺手の観察日記は作業療法士と一緒に実施,問題解決技法は実場面で反復的に指導した.分析は,最小自乗法による回帰直線のあてはめ,二項分布,比率に基づく効果量(以下,PND)を行った. PNDの解釈はScruggs & Mastropieri(1998)の基準を参考とした.尚,本介入は当院倫理委員会の承認を得た上で,症例・家族に同意を得て実施した(承認番号:20210040).
【結果】FMAの平均値(点)/回帰係数はB1期56.67±1.70/0.8,A期56.6±0.49/0,B2期58.0±0.89/0.4,A期とB2期の二項分布はp<0.05,PNDは60%(Questionable)であった.排泄AOUの平均値(点)/回帰係数はB1期2.9±0.93/0.4143,A期3.1±0.2/-0.05,B2期3.8±0.24/0.15,A期とB2期の二項分布はp<0.05,PNDは60%(Questionable)であった.排泄QOMの平均値(点)/回帰係数はB1期2.6±0.84/0.4429,A期3.1±0.2/0.05,B2期3.2+0.4/0.25,A期とB2期の二項分布はp>0.05,PNDは0%(Ineffective)であった.整髪AOUの平均値(点)/回帰係数はB1期2.3±0.90/0.5143,A期2.9±0.2/-0.1,B2期3.4±0.2/0.1,A期とB2期の二項分布はp<0.05,PNDは80%(Effective)であった.整髪QOMの平均値(点)/回帰係数はB1期2.3±0.69/0.3857,A期2.8±0.24/-0.05,B2期3.4±0.2/0.1,A期とB2期の二項分布はp<0.05,PNDは80%(Effective)であった.食事は,B1期で麻痺手でのスプーンの使用が一部可能となるが,A期では「大変」などの理由で非麻痺手の使用となった.しかし,B2期では麻痺手でのスプーンの使用が定着し,最終的に箸の使用が定着した.
【考察】ADOCで目標共有を行い,モニタリングの援助と実場面での問題解決技法の指導を実施することで失語症患者でもTPの効果が得られたと考える.特に両手動作の排泄よりも片手動作の整髪で効果量が大きく,学習性不使用が改善されたと推測する.しかし,B1期からA期の持ち越し効果は認めなかった.これは失語症の影響で,自己の行動をモニタリング・分析・修正することができず,自己効力感が欠如したためと考える.今後は症例数を増やし,様々な重症度の症例に対して効果を検証していきたい.