第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

Fri. Sep 16, 2022 1:20 PM - 2:20 PM 第3会場 (Annex2)

座長:岩波 潤(信州大学)

[OA-2-1] 急性期脳卒中患者の神経心理学的検査は J-SDSA の合否を予測できるか?

~ J-SDSA 境界型を不合格にした場合の検討~

酒井 愛菜1加藤 友里夏1須堯 敦史1島崎 功一1北川 直毅2 (1.独立行政法人労働者健康安全機構長崎労災病院中央リハビリテーション部, 2.独立行政法人労働者健康安全機構長崎労災病院脳神経外科)

【はじめに】
長崎県は,公共交通機関の不足や,高齢者世帯増加などの地域特性があり,退院後の運転支援のニーズは高い.当院では,軽症脳卒中患者の運転再開に向けて,脳卒中ドライバースクリーニング評価(以下J-SDSA)を実施している. 当院では,J-SDSA合格予測式と不合格予測式の乖離が十分にある場合は,早期からの運転再開を許可している.一方,乖離が1.0未満で合格した者(以下境界型合格者)は,当院のルールとして自動車学校での実車評価を行い多面的な評価を行っている.しかし,実車評価の日程までの待機期間の超過や実車評価に伴う費用は,対象者への負担も少なくない.我々はSTROKE2022でTrail MakingTest(以下TMT) -JBが125秒以上かかるとJ-SDSAは不合格になる可能性があることを報告した.しかしその合格者の中には,境界型合格者が含まれているため,実車評価を未実施で運転再開を可能とする予測因子までは明らかとなっていない.そこで今回の目的は,境界型合格者を不合格とした場合に神経心理学的検査でJ-SDSAの合否を予測できるか検討することである.
【倫理的配慮】
本研究は倫理委員会の承認のもと,患者様に説明を行い,書面にて同意を得た.
【対象と方法】
2020年4月から2022年1月の間にJ-SDSAを実施した脳卒中患者53名(平均年齢62.6±10.5歳)を対象とした.対象者は視覚機能,聴覚機能を満たし,また半側空間無視や失語症がある者を除外した53名とした.J-SDSA合格予測式と不合格予測式の乖離が1.0以上あった37名をPass群,境界型合格者と不合格者を合わせた16名をFall群の2群に分類し,Mini-Mental State Examination(以下MMSE),コースIQ, TMT-JA/Bに対し,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定で2群間を比較した.次に, J-SDSAの合否を多重ロジスティク分析にて解析し,採択された結果をROC曲線を用い,感度,特異度,カットオフ値,曲線下面積を算出した.いずれの統計処理も有意水準5%とした.
【結果】Pass群とFall群の比較では年齢,MMSE,Kohs-IQ,TMT-JA/Bに有意差を認めた.次に多重ロジスティク回帰分析の結果では,TMT-JBのみが採択された.ROC曲線分析によるTMT-JBのカットオフ値は86.5秒で,曲線下面積86.1,感度は93.8,特異度は70.3であった.
【考察】
本研究ではROC曲線からTMT-JBが86.5秒以内であると, J-SDSAを1.0以上乖離して合格になる可能性が示された.我々が以前報告したTMT-JBのカットオフ値125秒と今回の86.50秒では約40秒の差があり,この範囲のスコアであれば, J-SDSAが境界型合格者となり実車評価実施の可能性が高くなる.このような場合,軽症脳梗塞では発症8~14日後のTMT-Jスコアの異常は約一か月後の再評価で経時的に改善される(吉岡ら2020)と報告があることから, TMT-JBを約一か月後に再評価し, J-SDSAの実施時期を検討することで実車評価の必要性を減らすことが可能になると考えられた.このことからTMT –JをSDSA実施前に評価することは,運転再開を希望する軽症脳卒中患者において有用であることが示唆された.