第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

Fri. Sep 16, 2022 1:20 PM - 2:20 PM 第3会場 (Annex2)

座長:岩波 潤(信州大学)

[OA-2-2] 左半側空間無視患者の BIT 行動性無視検査日本版における線分二等分試験と抹消試験にみられる無視空間の特徴

高田 善栄12前田 眞治2菅原 光晴3山本 潤4 (1.総合南東北病院リハビリテーション科, 2.国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野, 3.清伸会ふじの温泉病院, 4.国際医療福祉大学小田原保健医療学部 作業療法学科)

【序論】机上の左半側空間無視(以下,USN)評価の特徴は,無視前線は垂直ではなく反時計方向に傾斜し左下の空間を見落とすが(福井,1983),先行研究では検査得点や左右差の比較が多く,本邦において多数例での無視空間の詳細な検討を行っている報告は少ない.そこで,本研究の目的はUSN患者の無視空間をBITの線分二等分試験,線分抹消試験,文字抹消試験,星印抹消試験(以下,机上検査)を上・中・下段に分け,上下左右方向の無視空間の特徴から,効率的な作業療法実践を見出すとした.さらに,損傷部位の無視空間の違いについての検討も行った.
【対象】2009年4月から2019年3月までの10年間に当院に入院したテント上の脳梗塞と脳出血患者5,122名のうち,①初発の右半球損傷患者,②BIT通常検査が131点以下,③BITの評価が発症から20日以内,④右手利き,⑤20歳以上90歳未満,⑥MMSEが15点以上の6条件を満たす202名(男性132名,女性70名).さらにCTとMRIの画像所見から損傷部位を①前頭葉損傷群28名,②頭頂・側頭葉損傷群25名,③後頭葉損傷群17名,④基底核損傷群75名,⑤MCA損傷群(起始部)19名,⑥MCA損傷群(多発例)38名の6群に分けた.
【方法】本研究は後方視的観察研究である.身体の正面正中を基準に水平面上で身体からの距離が遠い標的を上段,手前を下段とした.以下に各机上検査の分析方法を示す.線分二等分試験は,3本の線分を上・中・下段とした.患者が線分に印を付けた所を分析対象とし,その箇所を線分の半分の長さで割り,100をかけたものを左空間の認知率とした.線分抹消試験は,横軸は6段にわけ,線分の数が6本となる2段目を上段,4段目を中段,6段目を下段とした.縦軸は7列に分けた.左空間の認知率は,一番右端の縦軸を基準とし,患者が印を付けた線分の列の中央の距離を列7の中央の距離の260mmで割り,100をかけて求めた.文字抹消試験は,1行目,3行目,5行目を上段・中段・下段とした.左空間の認知率は,一番左側の「え」または「つ」に印を付けた箇所の通し番号を最も左側の「え」または「つ」の通し番号で割り,100をかけて求めた.星印抹消試験は,横軸は標的となる小さい星の数が概ね均一になるように上・中・下段に分けた.縦軸は7列に分けた.一番右端の縦軸に引いた線を基準とし患者が一番左側に印を付けた列の中央の距離を列7の中央の距離の257mmで割り,100をかけて求めた.統計学的解析は,机上検査の上・中・下段の左空間の認知率の比較は,Kruskal Wallis検定を実施し多重比較はBonferroni検定を用いた.損傷部位に分けた場合の左空間の認知率の比較も同様に行った.有意水準は5%とし,統計解析はSPSS ver. 25(IBM)を用いた.なお,当院の倫理委員会の承認を得ている(承認番号372).
【結果】左空間の認知率の比較で,線分二等分試験のみが上段と中段および上段と下段に有意差がみられ(p<0.01),特徴的な左下の無視空間を呈した.他の3つの抹消試験は,上・中・下段の左側無視に差がなく,上下方向の空間認知が可能なことを明らかにした.損傷部位の特徴として前頭葉損傷群は線分二等分試験の上・下段の差でUSNを捉えられることが新たに認められた.
【考察】BITの机上検査で上下左右方向の無視空間を抽出することは,空間認知要因が強い線分二等分試験と視覚探索要因が強い抹消試験で無視空間の特徴は異なり,各損傷部位にも特徴があることがわかった.空間認知要因が強い課題は上下左右の標的を近接させ,視覚探索要因が強い課題は上下方向へ誘導することが無視空間への気づきを促すと考えられ,これらを考慮すると効率的な作業療法につながると思われた