[OA-2-4] 口述発表:脳血管疾患等 2左上肢の意図的な使用と重度注意障害に対する介入がADL能力向上に有効であったAlien Hand Syndromeの一症例
【はじめに】AlienHandsyndrome(以下,AHS)に対する明確な治療法は確立されておらず,ADL動作獲得の阻害となりやすい(原ら2014,早川ら2002).根岸ら(2018)は,AHSの回復について1,注意障害の改善,2,手への意識や病識,3,意図的使用が重要と推察している.また,右利き者の場合,左手は道具操作時に主体的役割をすることが少なく,右半球損傷では無視や病識低下,注意障害を合併しやすいことから左手のAHSの回復は不利であると報告している.今回,左手のAHSと重度の注意障害を呈した症例に対し,上記3点を中心に環境調整と段階付けながら介入した結果,AHSと注意障害の改善,ADL向上に至ったため報告する.
【対象】80歳代女性,右利き.右脳梁膝部含む右前大脳動脈領域にアテローム血栓性脳梗塞を発症し,左片麻痺,AHS,重度注意障害を認めた.上肢機能はBRS上肢4・手指5,STEF左46点. FIM運動項目31/91点であった.神経心理学的検査ではTMT-Jは実施困難であり, BIT通常検査は78/146点で外部刺激に対し注意が転導しやすく,情報量が多くなると左側の見落としが増加した.一方で,日常生活ではUSNと考えられる症状は出現していなかった.
【AHの特徴】1,運動時・静止時問わず左手の抑制困難となる異常運動が出現した.2,起立・移乗時に左手の強制把握により手すりから手を離せない.3,両手の協調性を伴う場面で左手の動作開始・停止が遅延した.4,拮抗失行や道具の強迫的使用はみられない.
【介入方法】27病日から以下の訓練を毎日実施し,各訓練内において段階付けを行った.また,訓練はいずれも個室やカーテンを用いて集中できる環境調整を行った.1,注意の持続性・選択性の改善を目的に,プリント課題を実施した.初期は課題の範囲を狭めた状態から開始し,正答数の向上や時間の短縮に伴い範囲を拡大した.2,左上肢の意識化と病識改善を目的に,左上肢での物品操作を実施し,徐々に両手での物品操作へ移行した.3,左上肢のADLへの使用汎化を目的に,病室でADL練習を行った.両手動作を伴う下衣更衣やトイレ動作時に左手の使用に難渋する際は,セラピストによる模倣や徒手誘導で左手の使用を促した.
【結果】56病日にはBRS上肢・手指ともに5,STEF左72点となった.神経心理学的検査では, TMTJは所時間PartA149秒,PartB658秒となり,PartBにおいては完遂所要時間を大幅に超過したが,最後まで取り組む事が可能となった.BIT通常検査は116/146点へ改善した.FIM運動項目は59/91点となり,ADL場面でもAHの特徴で述べたAHS,強制把握,探索反応は消失し,左上肢の適切な参加を認めた.
【考察】本症例はAHSに加え重度注意障害を認め,ADL動作の獲得が難渋すると予測された.そこで,先行研究を参考に,症例の症状に合わせた段階的な介入を行った結果,AHSの改善と注意機能の向上に至った.根岸ら(2019)は,左手のAHS症例の左手の不使用には,狭義のAHSそのものの特徴や,運動無視による影響などが一因ではないかと報告している.一方で,本症例では,日常生活で支障となるUSNは呈しておらず,また運動無視を合併していない事が左手のAHSが改善した要因と考えられる.また,注意障害の介入に対し,和智ら(2004)は,注意が転導しない環境調整を行い,刺激量のコントロールと段階付けの介入が注意障害の患者のADL改善に有効であったとしている.これらのことから,左上肢のAHSと重度注意障害を呈した症例に対し,左上肢への意識と病識改善に向けた左手の意図的使用を促す関わりと,注意障害に配慮したADL練習が有効である可能性が考えられた.
【倫理的配慮】本研究に際し,当法人の倫理委員会の承認を得ている.
【対象】80歳代女性,右利き.右脳梁膝部含む右前大脳動脈領域にアテローム血栓性脳梗塞を発症し,左片麻痺,AHS,重度注意障害を認めた.上肢機能はBRS上肢4・手指5,STEF左46点. FIM運動項目31/91点であった.神経心理学的検査ではTMT-Jは実施困難であり, BIT通常検査は78/146点で外部刺激に対し注意が転導しやすく,情報量が多くなると左側の見落としが増加した.一方で,日常生活ではUSNと考えられる症状は出現していなかった.
【AHの特徴】1,運動時・静止時問わず左手の抑制困難となる異常運動が出現した.2,起立・移乗時に左手の強制把握により手すりから手を離せない.3,両手の協調性を伴う場面で左手の動作開始・停止が遅延した.4,拮抗失行や道具の強迫的使用はみられない.
【介入方法】27病日から以下の訓練を毎日実施し,各訓練内において段階付けを行った.また,訓練はいずれも個室やカーテンを用いて集中できる環境調整を行った.1,注意の持続性・選択性の改善を目的に,プリント課題を実施した.初期は課題の範囲を狭めた状態から開始し,正答数の向上や時間の短縮に伴い範囲を拡大した.2,左上肢の意識化と病識改善を目的に,左上肢での物品操作を実施し,徐々に両手での物品操作へ移行した.3,左上肢のADLへの使用汎化を目的に,病室でADL練習を行った.両手動作を伴う下衣更衣やトイレ動作時に左手の使用に難渋する際は,セラピストによる模倣や徒手誘導で左手の使用を促した.
【結果】56病日にはBRS上肢・手指ともに5,STEF左72点となった.神経心理学的検査では, TMTJは所時間PartA149秒,PartB658秒となり,PartBにおいては完遂所要時間を大幅に超過したが,最後まで取り組む事が可能となった.BIT通常検査は116/146点へ改善した.FIM運動項目は59/91点となり,ADL場面でもAHの特徴で述べたAHS,強制把握,探索反応は消失し,左上肢の適切な参加を認めた.
【考察】本症例はAHSに加え重度注意障害を認め,ADL動作の獲得が難渋すると予測された.そこで,先行研究を参考に,症例の症状に合わせた段階的な介入を行った結果,AHSの改善と注意機能の向上に至った.根岸ら(2019)は,左手のAHS症例の左手の不使用には,狭義のAHSそのものの特徴や,運動無視による影響などが一因ではないかと報告している.一方で,本症例では,日常生活で支障となるUSNは呈しておらず,また運動無視を合併していない事が左手のAHSが改善した要因と考えられる.また,注意障害の介入に対し,和智ら(2004)は,注意が転導しない環境調整を行い,刺激量のコントロールと段階付けの介入が注意障害の患者のADL改善に有効であったとしている.これらのことから,左上肢のAHSと重度注意障害を呈した症例に対し,左上肢への意識と病識改善に向けた左手の意図的使用を促す関わりと,注意障害に配慮したADL練習が有効である可能性が考えられた.
【倫理的配慮】本研究に際し,当法人の倫理委員会の承認を得ている.