第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

Fri. Sep 16, 2022 1:20 PM - 2:20 PM 第3会場 (Annex2)

座長:岩波 潤(信州大学)

[OA-2-5] 口述発表:脳血管疾患等 2失行症患者に対して一人称視点を用いた訓練を行ったことでADLに汎化した一症例

林 映見1大角 駿介1神田 太一1松山 太士1 (1.八千代病院総合リハビリセンター)

【はじめに】
観念運動失行は,ジェスチャーの模倣や口頭命令で指示されたパントマイムを適切に行うことの障害とされており日常生活活動(activities of daily living:ADL)に大きな影響を及ぼす.また,症候が複雑であるため介入手法の確立は困難であり, ADLへの汎化についてもいまだ結論が出ていないとされている(清水ら,2018).一方,先行研究では,模倣行動における一人称視点(first person perspective:FPP)の利点を裏付ける報告が増えてきており,FPPからの視覚運動情報は三人称視点(third personperspective:TPP)よりも効率的な模倣行動を促進すると報告されている(渡辺ら,2016).今回, Smaniaら(2000)の写真を用いた訓練を参考に失行症を呈した症例に対しFPPの写真を用いて介入した結果,動作獲得に至った為報告する.尚,発表に際しては口頭で同意を得た.
【初期評価】
BRS上肢5手指5下肢6,FBS51/56点,FIM運動項目56点,認知項目10点. SPTAスクリーニング検査では右手は肢節運動失行,観念失行の疑い,左手は観念運動失行,観念失行の疑いがあった. ADLでの失行症状としては,箸を使用せず手で食べる,お椀を持たない,ナースコールの使用困難,トイレ内動作(パットを捨てる際のゴミ箱の開け方が分からない,水を流すセンサーをボタンのように押して流せない)が困難であった.SLTAでは聴理解は短文レベル,表出は単語から理解困難,読解は仮名漢字共に単語から理解困難,書字書き取りは共に困難であった.
【治療計画】
開始時より各失行症状に対して直接訓練を実施した.箸とお椀の使用は2週間程度でADL上可能となった.しかし,トイレ内動作とナースコールの使用のみADLへの汎化は見られなかった.そこで, 3つのパントマイム訓練と直接訓練を実施した.パントマイム訓練は,FPPでの上肢と物品が写った写真,FPPでの物品のみの写真,口答指示の3つのフィードバックをそれぞれ実施した.同訓練は訓練室にて一日40分~60分を一週間実施した.尚,写真はゴミ箱にパットを捨てる写真,ゴミ箱のみの写真,センサーに手をかざす写真,センサーのみの写真,ナースコールのみの写真を使用した.
【最終評価】
ナースコールにて尿便意の訴えができ,トイレ内動作時のエラーは改善,声かけや介助なく自己修正が可能となる.病棟の環境内でナースコール依頼,移動遠位見守り,トイレ動作病棟内自立となった.SPTAスクリーニング,SLTAの点数に変化は見られなかった.
【考察】
今回,スタッフがTPPで動作を提示し模倣を促すが動作獲得には至らなかった症例に対しFPPの写真を用いて介入した結果,動作獲得とADLへの汎化が見られた.この結果について,FPPとTPPの違いから考察する.FPPからの視覚運動情報はTPPよりも反応時間が速く,より正確な模倣行動を促進するとされている(渡辺ら,2016).また,失行症患者は運動結果の予測情報と感覚フィードバックを統合する機能に低下があり,失行の重症度と感覚運動統合障害には相関関係があるとされている.加えて,運動結果の予測形成を促し,感覚運動統合を促進させる介入が失行の改善に寄与する可能性を示唆している(信迫ら,2018).その為,運動結果の予測情報と感覚フィードバックを統合する機能が低下している失行患者に対しFPPの写真(有意味動作の一部を切り取ったもの)を使用した模倣動作は,言語命令と同じ役割を果たしており,正しい動作を喚起するために活用されたと考える.また,FPPに基づいた動作を反復的に行った事で動作理解が進み運動習熟度の向上とADLへの汎化に繋がったと考える.今回,写真を用いたFPPでの訓練効果の可能性が示唆された.今後,写真を用いたFPPでの訓練と写真を用いないFPPでの訓練との効果の比較等も行っていきたい.