[OA-4-2] 口述発表:脳血管疾患等 4不全頸髄損傷患者に対するCI療法により補助手が実用手へと改善した症例
【はじめに】
近年,日本における脊髄損傷は,88%が頚髄損傷(以下CSCI)であり,不全損傷患者の割合が高いことが知られている.不全損傷患者の中でも,CSCIは上肢に麻痺が残存しやすい特徴があり,麻痺に左右差のある症例を治療する機会は少なくない.しかし,現在渉猟する限りCSCI患者への上肢機能改善の有効な介入方法は確立されていない.近年,Constraint-Induced Therapy(以下CI療法)をCSCI患者に対して実施し,上肢機能の改善がみられることが報告されている.そこで今回は不全CSCI患者に対してCI療法を実施した結果,上肢機能が向上し実用手としての動作を獲得した症例を経験したため報告する.
【症例紹介】
60代男性で右利き,転倒し受傷,C3/4頸髄損傷の診断となる.受傷時Neurological Level of Injury(以下NLI) C4,Asia Impairment Scale(以下AIS):Dであった.受傷後147日でCI療法を開始.開始時AIS:D,Upper Extremity Motor Score(以下UEMS):20/25, STEF(Rt/Lt):46/87,Motor Activity Log(以下MAL)Amount of Use(以下AOU):1.57/4.0 Quality of Movement(以下QOM):1.29/4.0,Spinal Cord Independence Measure(以下SCIM):98点(入浴−2点)であった.右上肢の筋力は実用的なレベルだが,右手指の巧緻動作障害が強く,ADLで右上肢の参加せず,左上肢を使用して自立していた.本人のデマンドとして右上肢が動きやすくなればいいと考えていた.今回の報告にあたって,症例から口頭にて同意を得た.
【方法】
CI療法は通常の訓練に加え1時間程度(5回/週×5週,合計22回)の右上肢重点的訓練(shaping課題)と,右上肢を使用したADL訓練を実施した.CI療法に対し本人に十分な理解が得られていたため,訓練中の左上肢の拘束は行わなかった.Shaping課題は巧緻動作と粗大動作を組み合わせて実施.課題難易度はリーチ範囲や,物品の形状を変更し調整した.ADL訓練は病棟にて,右上肢を使用した動作を実施し,継続して行うように働きかけた.まず,右上肢での食事訓練を実施,右上肢の機能改善に応じてスプーンから補助箸と変更した.その他,タオル絞りや書字等を追加した.また,左上肢を自分で簡易的な拘束ができるようグローブを貸し,時間を決め自主訓練が行えるように,習慣的な右上肢の使用を促した.
【結果】
最終評価時(受傷後179日),AIS,UEMSに変化は認めなかった. STEF:78/93と左右ともに向上,SCIM:100となった.MALは AOU:1.42/4.0 QOM:1.42/4.0で大きな変化は認めなかった.ADLは食事を右手で箸の使用が可能となり,本人も右手使用を意識するようになったと発言もあった.その他,スマホ操作やカップを持つ等も右上肢を使用し,右上肢の使用頻度は向上した.
【考察】
CSCI患者へCI療法を実施し,短期間の介入で上肢機能の改善を認め,補助手から実用手となった.本症例において,CI療法の課題を課題志向型のものとし適切な難易度でADL訓練を実施したこと,また本人が右上肢改善への意志が強く,介入により上肢使用が習慣となりADL場面での使用頻度向上が,上肢機能改善の一因となったと考える.しかし,MALでは著明な改善がみられなかったが,SCI患者は両側に麻痺があるため両手動作の中での上肢使用の質改善まで影響を与えなかったと考えられる.今回の結果からSCI患者へのCI療法は効果的である可能性が示唆された.しかし,より効果的にCI療法が適応できるCSCI患者の条件等は未だ明らかとなっておらず,今後症例数を増やし検討することが必要であると考える.
近年,日本における脊髄損傷は,88%が頚髄損傷(以下CSCI)であり,不全損傷患者の割合が高いことが知られている.不全損傷患者の中でも,CSCIは上肢に麻痺が残存しやすい特徴があり,麻痺に左右差のある症例を治療する機会は少なくない.しかし,現在渉猟する限りCSCI患者への上肢機能改善の有効な介入方法は確立されていない.近年,Constraint-Induced Therapy(以下CI療法)をCSCI患者に対して実施し,上肢機能の改善がみられることが報告されている.そこで今回は不全CSCI患者に対してCI療法を実施した結果,上肢機能が向上し実用手としての動作を獲得した症例を経験したため報告する.
【症例紹介】
60代男性で右利き,転倒し受傷,C3/4頸髄損傷の診断となる.受傷時Neurological Level of Injury(以下NLI) C4,Asia Impairment Scale(以下AIS):Dであった.受傷後147日でCI療法を開始.開始時AIS:D,Upper Extremity Motor Score(以下UEMS):20/25, STEF(Rt/Lt):46/87,Motor Activity Log(以下MAL)Amount of Use(以下AOU):1.57/4.0 Quality of Movement(以下QOM):1.29/4.0,Spinal Cord Independence Measure(以下SCIM):98点(入浴−2点)であった.右上肢の筋力は実用的なレベルだが,右手指の巧緻動作障害が強く,ADLで右上肢の参加せず,左上肢を使用して自立していた.本人のデマンドとして右上肢が動きやすくなればいいと考えていた.今回の報告にあたって,症例から口頭にて同意を得た.
【方法】
CI療法は通常の訓練に加え1時間程度(5回/週×5週,合計22回)の右上肢重点的訓練(shaping課題)と,右上肢を使用したADL訓練を実施した.CI療法に対し本人に十分な理解が得られていたため,訓練中の左上肢の拘束は行わなかった.Shaping課題は巧緻動作と粗大動作を組み合わせて実施.課題難易度はリーチ範囲や,物品の形状を変更し調整した.ADL訓練は病棟にて,右上肢を使用した動作を実施し,継続して行うように働きかけた.まず,右上肢での食事訓練を実施,右上肢の機能改善に応じてスプーンから補助箸と変更した.その他,タオル絞りや書字等を追加した.また,左上肢を自分で簡易的な拘束ができるようグローブを貸し,時間を決め自主訓練が行えるように,習慣的な右上肢の使用を促した.
【結果】
最終評価時(受傷後179日),AIS,UEMSに変化は認めなかった. STEF:78/93と左右ともに向上,SCIM:100となった.MALは AOU:1.42/4.0 QOM:1.42/4.0で大きな変化は認めなかった.ADLは食事を右手で箸の使用が可能となり,本人も右手使用を意識するようになったと発言もあった.その他,スマホ操作やカップを持つ等も右上肢を使用し,右上肢の使用頻度は向上した.
【考察】
CSCI患者へCI療法を実施し,短期間の介入で上肢機能の改善を認め,補助手から実用手となった.本症例において,CI療法の課題を課題志向型のものとし適切な難易度でADL訓練を実施したこと,また本人が右上肢改善への意志が強く,介入により上肢使用が習慣となりADL場面での使用頻度向上が,上肢機能改善の一因となったと考える.しかし,MALでは著明な改善がみられなかったが,SCI患者は両側に麻痺があるため両手動作の中での上肢使用の質改善まで影響を与えなかったと考えられる.今回の結果からSCI患者へのCI療法は効果的である可能性が示唆された.しかし,より効果的にCI療法が適応できるCSCI患者の条件等は未だ明らかとなっておらず,今後症例数を増やし検討することが必要であると考える.