第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

脳血管疾患等

[OA-5] 一般演題:脳血管疾患等 5

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第8会場 (RoomE)

座長:石川 哲也(済生会神奈川県病院)

[OA-5-2] 口述発表:脳血管疾患等 5脳損傷による複視を伴う外眼筋麻痺とFIM運動項目との関連:ケースコントロール研究

渡部 喬之12阿部 真理奈3迫 力太郎3鈴木 久義2依田 光正4 (1.昭和大学横浜市北部病院リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科, 3.昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーションセンター, 4.昭和大学医学部リハビリテーション医学講座
)

【序論】脳損傷者の37%に何らかの眼位偏倚が発生したと報告されている(Fowler MS et al,1996).回復期リハビリテーション病棟(以下;回復期病棟)においても,入棟している脳損傷者の中に,外眼筋麻痺により複視を呈している者が散見される.外眼筋麻痺による生活への影響があることは容易に想像し得るが,日常生活活動の自立度への影響を報告したものは過去に無い.
【目的】本研究は,回復期病棟における,脳損傷による複視を伴う外眼筋麻痺とFIM運動項目との関連を,ケースコントロール研究にて明らかにすることとした.
【方法】対象者:外眼筋麻痺群の選定は,2011年1月から2019年12月までの8年間で,A病院回復期病棟に入院し,①初発の脳損傷である,②一般的に外眼筋麻痺が起こりうる脳幹病変,小脳病変,くも膜下出血,頭部外傷のいずれかである,③既往に眼科疾患が無い,④監視歩行が可能である,⑤HDS-R21点以上である,⑥外眼筋麻痺を呈していることの条件を満たした者を抽出した.外眼筋麻痺の基準は,斜視角が5°以上偏倚しており,かつ正中視または水平方向視で複視を呈していることとした.コントロール群の選定は,2016年1月から2019年12月までの3年間で,A病院回復期病棟に入院し,外眼筋麻痺が無くかつ同様の①~⑤の条件を満たした者とした.研究手順:抽出された対象者の,年齢,発症からの期間,性別,診断名,FIM運動項目を後方視的に調査した.上記の項目は入院時に測定したものを抽出した.外眼筋麻痺は眼科医の診療記録から,入院時に測定した眼位9方向写真,ヘス赤緑検査結果,複視の有無を調査した.9方向写真,ヘス赤緑検査結果から,眼球運動解析ソフトHAS-XViewer(ディテクト社製)を用いて斜視角を算出した.分析:①外眼筋麻痺群とコントロール群の年齢などのベースラインの比較,②外眼筋麻痺群の斜視角とFIM運動項目合計点の相関の検討,③外眼筋麻痺群とコントロール群のFIM運動項目13項目,合計点の中央値を統計処理にて比較した.解析ソフトはJMP Pro Version15を使用し,有意水準は5%未満に設定した.本研究は,所属施設臨床試験審査委員会の承認を得て行われた(F2021C010).
【結果】選定基準により外眼筋麻痺群34名,コントロール群44名が本研究対象者として抽出された.外眼筋麻痺群とコントロール群における入院時のベースラインに有意差を認めなかった.外眼筋麻痺群の斜視角とFIM運動項目合計点は有意に負の相関を認め,斜視角が大きいほど日常生活活動の自立度が低い傾向にあった(r=-0.41,p=0.02).FIM運動項目合計点の中央値は,外眼筋麻痺群76点,コントロール群83点であり,外眼筋麻痺を有する者は日常生活活動の自立度が低かった(p=0.01).細項目では,清拭,更衣(下),トイレ,ベッド移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,移動(歩行)において,外眼筋麻痺群の自立度が有意に低かった(p<0.05).
【考察】回復期脳損傷者の外眼筋麻痺と日常生活活動の自立度との関連を示した報告は無く,新たな知見となった.複視を伴う外眼筋麻痺の有無と関連を認めたFIM運動項目は,すべて立位を伴う動作であった.外眼筋麻痺を呈することで複視となり,距離感の障害,障害物の把握など安全性の低下,視覚への注意量増加による自己身体への注意力低下などにより,立位を伴う動作の介助量が増加する傾向にあったと考える.外眼筋麻痺の介入に関するエビデンスは構築されつつあり,回復期脳損傷者を対象とした訓練効果を示した報告もある(Watabe et al,2021).日常生活活動の自立度向上のために,外眼筋麻痺に対する積極的な介入が必要であると考える.