[OA-5-3] 口述発表:脳血管疾患等 5One and Half症候群の一症例―食事動作獲得を目指して―
【はじめに】 One and Half症候群は,内側縦束(以下MLF)症候群に加え同側の傍正中網様体(以下PPRF)が同時に障害される疾患である.脳梗塞や脳出血などの病巣側の眼球は内転・外転運動が不能となり,健側の眼球は内転運動障害を認めるが輻輳は保たれる病態である.先行研究では水平眼球運動訓練を行い機能改善が得られという報告は散見されるが,ADLへの介入報告は少ない.今回,水平眼球運動訓練に加え視覚と運動の統合訓練,食事動作訓練を行い改善を認めたため報告する.
【症例紹介】 症例は70代後半右利きの女性である.疾患名は左橋梗塞(橋被蓋傍正中部)である.病前ADLは自立していた.
【作業療法初期評価】 (入院翌日~7日目)
作業療法評価として右上下肢軽度運動麻痺,眼球運動障害を認めた.眼球運動障害は,複視の他に右方向への水平注視時に左眼内転障害,左方向への水平注視時に左眼外転障害・右眼内転障害を認めた.視野障害や感覚障害は認めなかった.日常生活動作(以下ADL)は機能的自立度評価法(以下FIM)90/126点で運動項目55/91点,認知項目35/35点であった.食事はFIM5点で片眼での食事動作は可能であった.しかし両眼での食事は箸先が食べ物からズレるため,頭頸部や体幹で代償し疲労の訴えが多く聞かれた.
【介入方法】 先行研究ではOne and Half症候群の眼球運動障害に対し前庭動眼反射(以下VOR)と滑動性眼球運動(以下PEM)を用いた水平眼球運動訓練が有効であると述べられている.本症例にもVOR,PEMを行った.介入当初は衝動性眼球運動促通を目的にVOR誘発を行った.VOR誘発は,セラピストが頭頸部を正中より他動的に左右回旋させ,症例には「セラピストの額を見る」と教示した.10回を1セットとし単眼と両眼で左右への誘導を1日5セットずつ行った.次に右眼球正中位保持が可能となり,僅かに両眼内転が可能となった2週目よりPEMを誘発した.誘発はPowerPointを用い,左右一側方向へ1分間に20回流れる印を頭頸部固定し単眼と両眼で追視させ1日3セット×1週間行った.視覚と運動の統合訓練はペグやセラコーンを使用して行った.食事動作訓練は右手で箸を使用し食材をつまみ口へ運ぶ動作を模擬動作と実際の食事場面で行った.どちらもセラピストが徒手誘導し正確な動作を繰り返し行い,エラーレスで反復動作訓練を行った.介助量は徐々に減らし,最終的に介助せず動作を行った.
【結果】 (入院21日~23日目)
右上下肢運動麻痺の症状軽減を認めた.眼球運動障害は写真で左右内転範囲の改善を認めた.左眼外転運動の改善も僅かに認めたが随意運動は認めなかった.右眼内転改善に伴い正面視での複視改善を認めた.ADLはFIM運動項目75/91点と改善を認めた.食事動作は,眼球運動の改善により両眼での食事が可能となり箸先のズレが消失し疲労の訴えはなくFIM7点と改善した.
【考察】 今回,複視・眼球運動が改善した要因としてはVOMやPEMによる水平注視訓練により左PPRFや左MLFを促通できたと考える.しかし,左眼外転運動の改善が僅かしか得られなかった.要因としては左眼外転運動障害のみ残存した事から左MLFと左PPRF障害に加え左外転神経核にも障害があったのではないかと考えられた.これらに加え,視覚と運動の統合訓練や食事動作訓練をエラーレスで動作訓練を行った事により視覚を元にした正確な上肢運動が可能となり食事動作が自立したと考えられる.VORやPEM,食事訓練により自然治癒を促通できたと考える.One and Half症候群に対して機能訓練に加えて,エラーレスでの視覚と運動の統合訓練や食事動作訓練の有用性が示唆された.
【症例紹介】 症例は70代後半右利きの女性である.疾患名は左橋梗塞(橋被蓋傍正中部)である.病前ADLは自立していた.
【作業療法初期評価】 (入院翌日~7日目)
作業療法評価として右上下肢軽度運動麻痺,眼球運動障害を認めた.眼球運動障害は,複視の他に右方向への水平注視時に左眼内転障害,左方向への水平注視時に左眼外転障害・右眼内転障害を認めた.視野障害や感覚障害は認めなかった.日常生活動作(以下ADL)は機能的自立度評価法(以下FIM)90/126点で運動項目55/91点,認知項目35/35点であった.食事はFIM5点で片眼での食事動作は可能であった.しかし両眼での食事は箸先が食べ物からズレるため,頭頸部や体幹で代償し疲労の訴えが多く聞かれた.
【介入方法】 先行研究ではOne and Half症候群の眼球運動障害に対し前庭動眼反射(以下VOR)と滑動性眼球運動(以下PEM)を用いた水平眼球運動訓練が有効であると述べられている.本症例にもVOR,PEMを行った.介入当初は衝動性眼球運動促通を目的にVOR誘発を行った.VOR誘発は,セラピストが頭頸部を正中より他動的に左右回旋させ,症例には「セラピストの額を見る」と教示した.10回を1セットとし単眼と両眼で左右への誘導を1日5セットずつ行った.次に右眼球正中位保持が可能となり,僅かに両眼内転が可能となった2週目よりPEMを誘発した.誘発はPowerPointを用い,左右一側方向へ1分間に20回流れる印を頭頸部固定し単眼と両眼で追視させ1日3セット×1週間行った.視覚と運動の統合訓練はペグやセラコーンを使用して行った.食事動作訓練は右手で箸を使用し食材をつまみ口へ運ぶ動作を模擬動作と実際の食事場面で行った.どちらもセラピストが徒手誘導し正確な動作を繰り返し行い,エラーレスで反復動作訓練を行った.介助量は徐々に減らし,最終的に介助せず動作を行った.
【結果】 (入院21日~23日目)
右上下肢運動麻痺の症状軽減を認めた.眼球運動障害は写真で左右内転範囲の改善を認めた.左眼外転運動の改善も僅かに認めたが随意運動は認めなかった.右眼内転改善に伴い正面視での複視改善を認めた.ADLはFIM運動項目75/91点と改善を認めた.食事動作は,眼球運動の改善により両眼での食事が可能となり箸先のズレが消失し疲労の訴えはなくFIM7点と改善した.
【考察】 今回,複視・眼球運動が改善した要因としてはVOMやPEMによる水平注視訓練により左PPRFや左MLFを促通できたと考える.しかし,左眼外転運動の改善が僅かしか得られなかった.要因としては左眼外転運動障害のみ残存した事から左MLFと左PPRF障害に加え左外転神経核にも障害があったのではないかと考えられた.これらに加え,視覚と運動の統合訓練や食事動作訓練をエラーレスで動作訓練を行った事により視覚を元にした正確な上肢運動が可能となり食事動作が自立したと考えられる.VORやPEM,食事訓練により自然治癒を促通できたと考える.One and Half症候群に対して機能訓練に加えて,エラーレスでの視覚と運動の統合訓練や食事動作訓練の有用性が示唆された.