第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-5] 一般演題:脳血管疾患等 5

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第8会場 (RoomE)

座長:石川 哲也(済生会神奈川県病院)

[OA-5-4] 口述発表:脳血管疾患等 5慢性疼痛に対する介入により恐怖回避モデルからの脱却を認め左上肢を使用した活動を獲得したー事例

佐々木 桃香1佐藤 光1 (IMSグループ 医療法人社団 明芳会 イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院)

【はじめに】近年,松原らによって慢性疼痛に対して,活動維持,運動療法,認知行動療法(CBT)といったリハビリテーションの有効性が報告されている.今回,上肢の慢性疼痛がある事例に対し,心理的要因に着目し,CBTを併用した運動療法とADL訓練を実施した結果,恐怖回避モデルからの脱却を認め,左上肢を使用したADLを再獲得した為,以下に報告する.
【事例紹介】80代男性.脳梗塞(脳梁).38病日に当院の回復期病棟へ入院.左Br.sⅢ,Ⅲ,Ⅳ. FMA25点.下垂手を認めたが,神経学的検査は異常なし. MAL-AOU0.55点,QOM0.63点.肩関節屈曲時NRS9.HDSR19点.外による炎症はないにも関わらず,疼痛の訴えにより左上肢の不使用がみられた為,心理的要因に対し評価した結果PCS41点,TSK47点,HADS-抑うつ13点,不安13点となり,恐怖回避モデルに陥っている可能性が示唆された. 尚,本報告は事例に同意を得ている.
【経過】
<第1期>破局的思考に着目した時期(66病日-96病日)ADL場面にて上肢の中枢部と比較し,末梢の疼痛が少なかったが「痛いから何も出来ない」と訴え,左上肢の不使用がみられた.その為,事例が目標として挙げた食事,更衣,洗顔,洗濯干し,食器洗い動作の中から,疼痛により更なる不安や恐怖を助長しない範囲で達成可能と考えられた服を摘まむ,食器を持つ事を目標とした.運動療法ではボールの把持,洗濯ばさみを摘まむ動作を反復して行い,成功体験を積み重ねたがNRS8で疼痛強度は高い状態であった.しかし,訓練時に「これなら痛くない」と発言が聞かれた為PCSを再評価し,21点と減少を認めた.
<第2期>痛み関連不安と過剰回避行動が強い病期 (97病日-194病日)発言と評価から破局的思考の改善がみられた為,CBTではADLの自己モニタリングを促し「動かしても痛くない」といった発言や左上肢を自主的に使用する等の適応行動に対して賞賛を与えた.運動療法ではズボンや食器を用いた多関節運動を段階的に行い,更衣や食事場面にて左上肢の使用を促した際に「着替えはできる,痛くない」と発言が聞かれ,NRS5となった.57病日目からCBT,運動療法では段階的に恐怖を引き起こすような暴露療法を開始した.疼痛がある中でも可能な動作を訓練に取り入れ,洗顔動作獲得に向けて肩関節屈曲動作を含む物品操作を行った.また,退院後の家庭内役割の再獲得に向けて家事動作訓練を開始し,病前に行っていた洗濯干しや食器洗いを実施した.その結果,洗濯動作時に「服を干す動きは肩が痛いけどできた」といった発言がきかれた為HADSを再評価し,抑うつ尺度が10点と減少を認めた.
【結果】左Br.sⅢ,Ⅳ,Ⅳ.FMA37点.MAL-AOU2.67点,QOM2.71点.肩関節屈曲時NRS6.HDS-R19点.PCS25点.TSK37点.HADS-抑うつ10点,不安5点.疼痛強度の大きな変化は認めなかったがADL,家事動作場面にて「痛いけどできた」という発言が聞かれ破局的思考や運動恐怖,不安が軽減し,恐怖回避モデルからの脱却を認め可能性が示唆された.
【考察】CBTでは恐怖活動を徐々にかつ繰り返し行い,活動と疼痛が連動しない事を学習する事が有効だと言われている.事例は,疼痛による無力感や否定的な発言があり,疼痛を伴う動作や予測刺激に対して恐怖心が強く,過剰回避行動をとっていた.その為,身体機能と疼痛の心理的要因を評価し,目標設定や課題提供を行った事で成功体験を積み重ねる事ができたのではないか.また,成功体験を積み重ねた段階で暴露療法を導入する事で疼痛強度が高い状態でも左上肢の使用が可能となりADLや病前の家庭内役割を再獲得する事ができたと考える.