[OA-6-2] 口述発表:脳血管疾患等 6Rash分析に基づく脳血管障害者の運転行動の難易度に関する研究
【序論】近年,自動車運転評価に対しての関心が高まっており,自動車教習所との連携による実車運転評価(以下,実車評価)の実践が多く報告されている.脳損傷者に対する実車評価はゴールドスタンダードとされているが,評価の標準化や評価法の特性による制限に悩まされている.本研究では,当院が実車評価時に使用する運転行動評価票(以下,評価票)について,Rash分析を用いて妥当性と信頼性を明らかにするとともに運転行動を難易度別に得点化することで実車評価時に着目すべき運転行動を明らかにすることを目指した.
【方法】所属機関で実車評価を実施した脳血管障害者の評価結果を後方視的に調査した.対象は,2017年4月から2020年3月の期間に入院していたもので,自動車運転の再開を希望し,自動車教習所で実車評価を実施した脳血管障害者172名(平均年齢54.5±9.7歳,男性140名,女性32名).分析対象の評価票は,違反者講習で使用される運転行動診断票を参考に教習指導員と協議を重ねて作成し,15項目の具体的な運転行動から構成されている.採点については一般的な減点法を採用せず,項目ごとに「1点:運転可能な範囲に達していない」「2点:運転可能な範囲だが注意を要する」「3点:運転可能」の3段階判定とした.加えて,運転適性の有無について総合的な判定を行った.統計学的解析は,評価項目の内的妥当性と難易度をWinsteps ver4.82.0を用いたRasch分析によって検討した.Rasch分析とは,順序尺度を間隔尺度に変換する際に用いられる統計手法の一つである.この手法は,構成概念妥当性の評価,測定項目の内部一貫性の決定,小項目の難易度の推定にも用いられる.適合統計値は,対象者から得られたデータのRaschモデルへの一致の程度を示し,情報に重み付けられた平均平方(infit)と,はずれ値に敏感な平均平方(outfit)の2種類の値を解析した.本研究では,infitまたはoutfitのいずれかが1.5以上の項目を不適合とした.各項目の難易度は,課題をうまく完了できる確率の対数を示すLogit(log odds units)で表現した.また,評価票が単一の特性を反映しているかを示す一次元性については,期待固有値を2以下に設定した残差の主成分分析を実施した.本研究は,所属機関倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には本研究について書面及び口頭にて説明を行い,同意書に署名を得た.
【結果】運転可群は117名,不可・保留群は55名であった.InfitまたはOutfit≧1.5を示したのは,「アクセル・ブレーキ操作」の1項目であった.項目全体における難易度の範囲は-1.95Logitsから
1.38Logitsであり,問題のない対象者には容易な項目が多いが,適性なしと判定された対象者の運転能力には十分対応できていた.最も難易度の高い項目は「交差点の左折」であり,続いて「右・左折時の確認行動」の2項目が並んだ.難易度の低い項目は「信号機のある交差点」「車間距離」であった.中程度の難易度としては,「一時停止」「後退操作」「速度調整」が示された.残差の第一主成分の固有値は1.8であり,意味のある成分は取り出されなかったことから全体の一次元性が確認された.評価票の信頼性を示す受験者分別信頼性は0.82,項目分別信頼性は0.97であった.
【考察】運転行動の難易度が中程度の項目については,実車評価時に着目すべき運転行動であると考える.不適合を示した「アクセル・ブレーキ操作」については,運転補助装置を使用した対象者において,予想以上に低く得点されている可能性があるため評価方法の検討が必要である.また,実車評価中の安全性への配慮から「車間距離」等は難易度が低くなっている可能性がある.
【方法】所属機関で実車評価を実施した脳血管障害者の評価結果を後方視的に調査した.対象は,2017年4月から2020年3月の期間に入院していたもので,自動車運転の再開を希望し,自動車教習所で実車評価を実施した脳血管障害者172名(平均年齢54.5±9.7歳,男性140名,女性32名).分析対象の評価票は,違反者講習で使用される運転行動診断票を参考に教習指導員と協議を重ねて作成し,15項目の具体的な運転行動から構成されている.採点については一般的な減点法を採用せず,項目ごとに「1点:運転可能な範囲に達していない」「2点:運転可能な範囲だが注意を要する」「3点:運転可能」の3段階判定とした.加えて,運転適性の有無について総合的な判定を行った.統計学的解析は,評価項目の内的妥当性と難易度をWinsteps ver4.82.0を用いたRasch分析によって検討した.Rasch分析とは,順序尺度を間隔尺度に変換する際に用いられる統計手法の一つである.この手法は,構成概念妥当性の評価,測定項目の内部一貫性の決定,小項目の難易度の推定にも用いられる.適合統計値は,対象者から得られたデータのRaschモデルへの一致の程度を示し,情報に重み付けられた平均平方(infit)と,はずれ値に敏感な平均平方(outfit)の2種類の値を解析した.本研究では,infitまたはoutfitのいずれかが1.5以上の項目を不適合とした.各項目の難易度は,課題をうまく完了できる確率の対数を示すLogit(log odds units)で表現した.また,評価票が単一の特性を反映しているかを示す一次元性については,期待固有値を2以下に設定した残差の主成分分析を実施した.本研究は,所属機関倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には本研究について書面及び口頭にて説明を行い,同意書に署名を得た.
【結果】運転可群は117名,不可・保留群は55名であった.InfitまたはOutfit≧1.5を示したのは,「アクセル・ブレーキ操作」の1項目であった.項目全体における難易度の範囲は-1.95Logitsから
1.38Logitsであり,問題のない対象者には容易な項目が多いが,適性なしと判定された対象者の運転能力には十分対応できていた.最も難易度の高い項目は「交差点の左折」であり,続いて「右・左折時の確認行動」の2項目が並んだ.難易度の低い項目は「信号機のある交差点」「車間距離」であった.中程度の難易度としては,「一時停止」「後退操作」「速度調整」が示された.残差の第一主成分の固有値は1.8であり,意味のある成分は取り出されなかったことから全体の一次元性が確認された.評価票の信頼性を示す受験者分別信頼性は0.82,項目分別信頼性は0.97であった.
【考察】運転行動の難易度が中程度の項目については,実車評価時に着目すべき運転行動であると考える.不適合を示した「アクセル・ブレーキ操作」については,運転補助装置を使用した対象者において,予想以上に低く得点されている可能性があるため評価方法の検討が必要である.また,実車評価中の安全性への配慮から「車間距離」等は難易度が低くなっている可能性がある.