[OA-6-4] 口述発表:脳血管疾患等 6没入型バーチャルリアリティ技術を用いて外出・買い物動作の評価を行った左同名半盲の一例
【緒言】脳卒中患者の28%は視野欠損を呈し(Row et al. 2019),視野欠損はIADL自立度に関連する(Patel et al. 2000)ことが報告されている.
没入型バーチャルリアリティ(VR)は3次元的に仮想の世界を体験できる技術であり,近年リハビリテーションへ応用されている.
今回,脳出血を発症後,左同名半盲を呈した症例に対して,VRを用いた課題を行い,実生活で想定される問題点を評価できたため,考察を加えて報告する.報告に関して症例には文書にて同意を得ている.
【症例】70歳代女性,右利き.入院前は独居でIADLは自立していた.X日,歩行時のふらつきを主訴に近医受診.頭部CTにて右側頭葉・後頭葉皮質下に脳出血を認め,加療目的で当院入院した.神経学的所見では,明らかな運動麻痺,感覚障害は認めなかったが,左同名半盲を認めた.X+10-12日の神経心理学的検査ではMMSE24/30,HDS-R25/30,TMT-JのA134秒,B実施困難,FAB11/18,BIT机上検査96/146,行動検査63/81,Catherine Bergego Scale (CBS)では療法士が7/30,患者が0/30であり,療法士評価と自覚症状で乖離が見られた.限られた範囲,慣れた環境であれば左側の探索が行えるため,病室内ADLは自立していたが,検査,病室外の移動や慣れない環境では左を見落とし,声かけが必要な場面があった.
【方法】X+17日目,見落としに対する気づきの向上を目的にVRを用いたIADL課題を実施した.ハードウェアはOculus Quest(Meta社),ソフトウェアはiADVISOR(ワイドソフトデザイン社)を用いた.iADVISORはIADLコンテンツと機能訓練コンテンツから構成されている.今回,練習として機能訓練から探索課題等を実施後,外出課題と買い物課題を用いて評価を行った.探索課題は患者が静止座位にて仮装空間に現れるターゲットに触れることによって消去するものであった.外出課題は信号のある交差点,信号のない交差点の左右を確認しながら渡るものであり,買い物課題はスーパーマーケット内を移動し,指定された品物を探索してカゴに入れるというものであった.
【結果】気分不快などの有害事象なく全ての課題を実施できた.探索課題では右と比べ左側の探索がやや少なかったものの全範囲の探索が行えた.外出課題では交差点で左方の確認が行えず,買い物課題では左側の棚を見ることができず,指定されたものをカゴに入れることが難しかった.実施後に実施場面の動画を供覧しフィードバックを行ったところ,「普段買い物に行く場所は慣れているからすぐに見つけられる,店員に聞くから大丈夫」など取り繕いが見られた.実施後のCBSは1/30と明らかな変化は認めなかった.急遽リハビリテーション目的の転院が決まり,VR課題は1回のみの実施となった.
【考察】本症例の病巣から左空間の見落としは左同名半盲と注意機能障害,病識の低下によるものと考えられた.病院内生活では静止して限られた範囲であればある程度の探索ができたが,移動が伴うと注意障害の影響もあり見落としが明らかとなっていた.VR環境においても同様の結果が得られ,VRを用いた評価は日常生活での環境を反映できると考えられた.
従来の外出や買い物の評価は準備やリスク管理から頻回の実施が難しく,日常生活とは異なる療法士が帯同している環境で実施される.しかしVRを用いることで安全かつ頻回に,療法士の帯同がない環境での評価が可能になると考えられる.また,今回は介入期間が短かったため実施できなかったが,実施状況を継続的に記録することで,IADLの変化を客観的に評価でき,見落としへの気づきを促す手段の一つになり得ると考えられた.
没入型バーチャルリアリティ(VR)は3次元的に仮想の世界を体験できる技術であり,近年リハビリテーションへ応用されている.
今回,脳出血を発症後,左同名半盲を呈した症例に対して,VRを用いた課題を行い,実生活で想定される問題点を評価できたため,考察を加えて報告する.報告に関して症例には文書にて同意を得ている.
【症例】70歳代女性,右利き.入院前は独居でIADLは自立していた.X日,歩行時のふらつきを主訴に近医受診.頭部CTにて右側頭葉・後頭葉皮質下に脳出血を認め,加療目的で当院入院した.神経学的所見では,明らかな運動麻痺,感覚障害は認めなかったが,左同名半盲を認めた.X+10-12日の神経心理学的検査ではMMSE24/30,HDS-R25/30,TMT-JのA134秒,B実施困難,FAB11/18,BIT机上検査96/146,行動検査63/81,Catherine Bergego Scale (CBS)では療法士が7/30,患者が0/30であり,療法士評価と自覚症状で乖離が見られた.限られた範囲,慣れた環境であれば左側の探索が行えるため,病室内ADLは自立していたが,検査,病室外の移動や慣れない環境では左を見落とし,声かけが必要な場面があった.
【方法】X+17日目,見落としに対する気づきの向上を目的にVRを用いたIADL課題を実施した.ハードウェアはOculus Quest(Meta社),ソフトウェアはiADVISOR(ワイドソフトデザイン社)を用いた.iADVISORはIADLコンテンツと機能訓練コンテンツから構成されている.今回,練習として機能訓練から探索課題等を実施後,外出課題と買い物課題を用いて評価を行った.探索課題は患者が静止座位にて仮装空間に現れるターゲットに触れることによって消去するものであった.外出課題は信号のある交差点,信号のない交差点の左右を確認しながら渡るものであり,買い物課題はスーパーマーケット内を移動し,指定された品物を探索してカゴに入れるというものであった.
【結果】気分不快などの有害事象なく全ての課題を実施できた.探索課題では右と比べ左側の探索がやや少なかったものの全範囲の探索が行えた.外出課題では交差点で左方の確認が行えず,買い物課題では左側の棚を見ることができず,指定されたものをカゴに入れることが難しかった.実施後に実施場面の動画を供覧しフィードバックを行ったところ,「普段買い物に行く場所は慣れているからすぐに見つけられる,店員に聞くから大丈夫」など取り繕いが見られた.実施後のCBSは1/30と明らかな変化は認めなかった.急遽リハビリテーション目的の転院が決まり,VR課題は1回のみの実施となった.
【考察】本症例の病巣から左空間の見落としは左同名半盲と注意機能障害,病識の低下によるものと考えられた.病院内生活では静止して限られた範囲であればある程度の探索ができたが,移動が伴うと注意障害の影響もあり見落としが明らかとなっていた.VR環境においても同様の結果が得られ,VRを用いた評価は日常生活での環境を反映できると考えられた.
従来の外出や買い物の評価は準備やリスク管理から頻回の実施が難しく,日常生活とは異なる療法士が帯同している環境で実施される.しかしVRを用いることで安全かつ頻回に,療法士の帯同がない環境での評価が可能になると考えられる.また,今回は介入期間が短かったため実施できなかったが,実施状況を継続的に記録することで,IADLの変化を客観的に評価でき,見落としへの気づきを促す手段の一つになり得ると考えられた.