[OA-7-5] 口述発表:脳血管疾患等 7脳腫瘍摘出術後に高次脳機能障害が出現した事例―ADOCを用いた作業療法がQOLを向上させた―
【はじめに】
脳腫瘍摘出術後に出現した高次脳機能障害に対する作業療法(OT)の報告は少ない.今回,作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いたOTにより,退院後早期の手段的日常生活動作(IADL)が維持され,かつ生活の質(QOL)が向上した脳腫瘍術後の事例を経験したため報告する.なお今回の報告は,ヘルシンキ宣言に基づき個人情報保護に十分留意し,事例に説明し書面にて同意を得た.
【事例報告・術前評価】
事例は50歳代の女性で,右前頭葉に希突起神経膠腫(gradeⅡ)を認めた.X-4病日に当院へ入院し,X日に頭蓋内腫瘍摘出術が施行された.術前評価はX−4病日からX−1病日の間に行った.高次脳機能評価としてTrail Making Test日本版(TMT−J)はPart A 32秒,Part B 70秒,前頭葉機能検査(FAB)は16点で年代平均と同程度であった.IADL評価としてFrenchay Activities Index(FAI)は29点でこちらも年代平均と同程度であった.QOL評価としてEORTC QLQ−C30(EORTC)の活動性尺度は全項目が100であった.身体症状尺度では倦怠感の項目が22.2であり,その他の項目はすべて0であった.総括的な尺度は66.6であった.ADLはすべて自立していた.
【作業療法経過】
術後初回介入はX+3病日であった.ADLは自立していたが,トイレまでの経路の間違いや,物品整理の困難さが観察され,IADLの阻害因子になると考えられた.そこでIADLの具体的な目標設定のため,X+4病日にADOCでの評価を行った.結果,炊事,運転や操作,ウォーキング・散歩,ペットの世話,財産の管理が挙げられ,以降はADOCの結果をもとにした介入を開始した.炊事では,安全性が高く工程の理解が比較的容易な食器洗いから始め,その1週間後より調理動作練習に移行した.ウォーキング・散歩では,ペットとの散歩を想定し自動車に配慮できるか評価しながら屋外歩行を練習した.運転はドライブシミュレーターにて評価と練習をし,財産の管理は院内で買い物しメモ等で自己管理してもらった.X+14病日の退院前にこれらの項目に関する指導内容をまとめた紙面を提供した.なおこの時点での TMT−JはPart A 186秒,Part B 実施不可,FABは10点であり,注意機能障害や前頭葉機能障害を認めた.その後外来にてフォローアップすることとなった.
【結果】
退院後,X+38病日にFAIとEORTCを評価した.FAIは29点で術前評価時と同様であった.EORTCは活動性尺度では全ての項目が100であった.身体症状尺度では倦怠感11.1,食欲不振33.3であった(倦怠感は改善し,食欲不振は悪化した).その他の項目はすべて0であった.総括的な尺度は75であり,術前よりも改善した.X+63病日にTMT−JとFABを評価した.TMT−JはPart A 58秒,PartB 100秒,FABは14点で注意機能障害が残存した.
【考察】
Day J,(2016)は,脳腫瘍術後の高次脳機能障害は7日から3カ月の間は残存する可能性があると述べており,Cubis L,(2018)は脳腫瘍患者における認知機能障害と身体機能障害は社会的活動を低下させると述べている.ADOCを活用する利点は,より事例が望む生活に近づけることである.本事例においては,術後早期は注意機能が低下していたが,具体的な目標を設け意欲的にIADL練習に取り組むことで,残存機能を駆使し動作学習が促されたと考えられた.また,入院期から事例の目標としている作業を段階付けて練習する事で,退院後も術前と同様のIADLの遂行が可能となり,QOLが向上したと考える.今回の経験より,脳腫瘍摘出術後,早期からのADOCの活用は,退院後のIADL維持およびQOL向上に寄与する可能性が示唆された.
脳腫瘍摘出術後に出現した高次脳機能障害に対する作業療法(OT)の報告は少ない.今回,作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いたOTにより,退院後早期の手段的日常生活動作(IADL)が維持され,かつ生活の質(QOL)が向上した脳腫瘍術後の事例を経験したため報告する.なお今回の報告は,ヘルシンキ宣言に基づき個人情報保護に十分留意し,事例に説明し書面にて同意を得た.
【事例報告・術前評価】
事例は50歳代の女性で,右前頭葉に希突起神経膠腫(gradeⅡ)を認めた.X-4病日に当院へ入院し,X日に頭蓋内腫瘍摘出術が施行された.術前評価はX−4病日からX−1病日の間に行った.高次脳機能評価としてTrail Making Test日本版(TMT−J)はPart A 32秒,Part B 70秒,前頭葉機能検査(FAB)は16点で年代平均と同程度であった.IADL評価としてFrenchay Activities Index(FAI)は29点でこちらも年代平均と同程度であった.QOL評価としてEORTC QLQ−C30(EORTC)の活動性尺度は全項目が100であった.身体症状尺度では倦怠感の項目が22.2であり,その他の項目はすべて0であった.総括的な尺度は66.6であった.ADLはすべて自立していた.
【作業療法経過】
術後初回介入はX+3病日であった.ADLは自立していたが,トイレまでの経路の間違いや,物品整理の困難さが観察され,IADLの阻害因子になると考えられた.そこでIADLの具体的な目標設定のため,X+4病日にADOCでの評価を行った.結果,炊事,運転や操作,ウォーキング・散歩,ペットの世話,財産の管理が挙げられ,以降はADOCの結果をもとにした介入を開始した.炊事では,安全性が高く工程の理解が比較的容易な食器洗いから始め,その1週間後より調理動作練習に移行した.ウォーキング・散歩では,ペットとの散歩を想定し自動車に配慮できるか評価しながら屋外歩行を練習した.運転はドライブシミュレーターにて評価と練習をし,財産の管理は院内で買い物しメモ等で自己管理してもらった.X+14病日の退院前にこれらの項目に関する指導内容をまとめた紙面を提供した.なおこの時点での TMT−JはPart A 186秒,Part B 実施不可,FABは10点であり,注意機能障害や前頭葉機能障害を認めた.その後外来にてフォローアップすることとなった.
【結果】
退院後,X+38病日にFAIとEORTCを評価した.FAIは29点で術前評価時と同様であった.EORTCは活動性尺度では全ての項目が100であった.身体症状尺度では倦怠感11.1,食欲不振33.3であった(倦怠感は改善し,食欲不振は悪化した).その他の項目はすべて0であった.総括的な尺度は75であり,術前よりも改善した.X+63病日にTMT−JとFABを評価した.TMT−JはPart A 58秒,PartB 100秒,FABは14点で注意機能障害が残存した.
【考察】
Day J,(2016)は,脳腫瘍術後の高次脳機能障害は7日から3カ月の間は残存する可能性があると述べており,Cubis L,(2018)は脳腫瘍患者における認知機能障害と身体機能障害は社会的活動を低下させると述べている.ADOCを活用する利点は,より事例が望む生活に近づけることである.本事例においては,術後早期は注意機能が低下していたが,具体的な目標を設け意欲的にIADL練習に取り組むことで,残存機能を駆使し動作学習が促されたと考えられた.また,入院期から事例の目標としている作業を段階付けて練習する事で,退院後も術前と同様のIADLの遂行が可能となり,QOLが向上したと考える.今回の経験より,脳腫瘍摘出術後,早期からのADOCの活用は,退院後のIADL維持およびQOL向上に寄与する可能性が示唆された.