第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第2会場 (Annex1)

座長:能登 真一(新潟医療福祉大学)

[OA-8-4] 口述発表:脳血管疾患等 8脳卒中後のうつ状態に対して情緒面に介入した結果,意欲向上し日常生活自立した事例―作業遂行6因子分析ツールを用いて―

西田 紘規1上野 佳美1橋本 恵1後藤 伸介1小林 幸治2 (1.特定医療法人社団勝木会やわたメディカルセンターリハビリテーション技師部, 2.目白大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】作業遂行6因子分析ツール(以下OPAT6)は,健康状態,心身機能,活動能力,環境,認識,情緒の6つの因子からなり,生活課題やリハビリテーションを進める上で課題となる作業遂行課題がどの因子により影響しているか分析し,ターゲットとなる因子を抽出し介入に導くツールである.今回,脳出血後のうつ状態になった症例に対し,OPAT6を用いた課題分析と作業療法と行ったことで復職に至ったので報告する.今回の発表に際し,対象者の同意を得ている.
【事例紹介】50歳代,男性.利き手は右手.家族構成は妻,子2人の4人家族.仕事は自営業(苗栽培業).真面目な性格によりストレスを感じやすく,元吹奏楽部であり,時折ピアノを弾き気分転換をしていた.診断名は右被殻出血.現病歴は,X日,麻痺症状が出現しA病院搬送.保存的加療を受け,X+22日当院回復期リハビリテーション病棟に転院となった.
【作業療法評価:初期X+22~34日】左上肢の運動麻痺BrunnstromStage(以下Br-s)Ⅴ-Ⅲ-Ⅵと軽度注意障害(TMT-JPartA68秒,PartB114秒)を認めた.これにより上肢の巧緻動作や運搬動作は不十分であった.家族や今後の仕事のことが心配で落ち込みがあり,日中はベッドで臥床していることが多く,他者との関わりを避ける傾向が認められた.ADL練習やPTによる機能練習を実施していたが,食事などの生活場面で左上肢の麻痺症状(特に巧緻性)が気になり情緒面の訴えは続いていた.
【作業療法方針:X+35日】事例の主体的な作業の実行状況を「抑うつ状態により生活全般の低活動」の状態にあると捉えた.これに作用している因子として「認識:生活や仕事が難しい」「情緒:不安,悲観」が抽出され,それらには「心身機能:左片麻痺,注意障害」による「活動能力:お椀や仕事道具が持てない」が作用していると考えた.不安や悲観が活動意欲を低下させていることから,これらを改善させうるキーファクターを「情緒」に設定した.
【経過・結果】X+35日,情緒面に対する作業を「ピアノ演奏」とした.ピアノは,病前から気分転換として用いていたこと,左手での演奏を行うことで音として変化を捉えやすいと考えた.しかしミスタッチにより自信喪失も考えられ,簡単な音階練習を提案した.また実施する際には,動画を用いて,変化を捉えやすく関わり,情緒や認識の変化を狙った.その結果,「弾ける」「昔を思い出し楽しい」と認識し,笑顔が見られた.数回繰り返すと「色々な曲を弾きたい」と意欲的且つ情緒面が安定していった.病棟生活では,自主練習に取り組む姿や職業練習に積極的に取り組むようになった.X+60日,Br-sⅥ-Ⅴ-Ⅵ,FIM運動項目81点まで改善し,両手で土袋を持つ,苗の選別作業が可能となった.「課題はあるが,何とか仕事出来るかもしれない」と認識.X+77日自宅退院し仕事を再開した.
【考察】OPAT6は,健康状態,心身機能,活動能力,環境,認識,情緒のどの因子が作業遂行課題に影響するかを分析するツールである.今回,患者の状況を多面的かつ同系列に捉えられるOPAT6を用いることで課題整理と介入を適切に行いやすいと考えた.本症例はうつ状態により情緒面が低下し病棟生活で低活動へと影響していたことから,情緒面をキーファクターとした.気分転換と機能改善を目的に,段階付けしたピアノを行ったことにより情緒が安定し,職業練習や自主練習に取り組む事ができた.結果,病棟生活が自立し,仕事に必要な動作を獲得し,自宅退院と仕事再開することができた