第56回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第2会場 (Annex1)

座長:能登 真一(新潟医療福祉大学)

[OA-8-5] 口述発表:脳血管疾患等 8皮質盲を呈した症例に対して認識・情緒に焦点を当てた介入―作業遂行6因子分析ツール(OPAT6)を用いて―

上野 佳美1西田 紘規1橋本 恵1後藤 伸介1小林 幸治2 (1.特定医療法人社団勝木会やわたメディカルセンター リハビリテーション技師部, 2.目白大学保健医療学部 作業療法学科)

【はじめに】作業遂行6因子分析ツール(以下OPAT6)とは,対象者の主体的な作業の実行状況に焦点を当て,その状況に対する6つの関連因子(健康状態・心身機能・活動能力・環境・認識・情緒)の相互作用を捉えて,最も影響を及ぼしているキー因子を推定し方針を検討するツールである.
 今回,OPAT6を用いて〈認識〉〈情緒〉をキー因子に,作業療法を行ったことで食事や排泄に改善を認めた症例について報告する.今回の発表に際し,対象者の同意を得ている.
【症例紹介】70歳代,女性,疾患名:可逆性後白質脳症,現病歴:X日に認知症の父の診療のため訪問看護師が訪問したところ自宅で倒れているところを発見されA病院に搬送.X+4日にB病院転院,可逆性後白質脳症と診断され,リハ目的にX+47日,当院転院.既往歴:2型糖尿病(55歳~),高血圧症,脂質異常症,心筋梗塞.病前生活:独歩でADL,IADL自立.実父と2人暮らしで介護を担っていた.夫は数年前に他界.自身のことを誰かのために尽くしてきた人生であったと発言する.
【作業療法初期評価】主体的な作業の実行状況:周辺環境の認知ができず混乱し,食事や排泄ができない.その課題に作用している因子は,〈心身機能〉意識レベルJCSⅠ-3,失見当識,皮質盲,失語症,失行,右片麻痺(Br.stageⅤ).〈活動〉食事・排泄全介助(食器や便器の認知ができないFIM合計22),〈認識〉何もできなくなった,どう動いてよいかわからない,皆に迷惑をかけている(COPM満足度1/10点),〈情緒〉絶望,寂しさ,〈環境〉介助者の適切な誘導方法が不明確,これらの相互作用を分析し,視覚的認知を意識した食事・排泄活動の練習(キー因子:活動)を作業療法として行い,遂行状況が変化すれば,皆に迷惑をかけているという認識情緒への変化につながるのではないかと推察した.
【経過】X+61日には,食事や排泄活動に多少の変化はみられたが,「こんなこともできなくなった」との落胆は残存し,自立度の改善は認められなかった.そこで再度関連因子の相互作用を捉えなおし,〈認識〉〈情緒〉をキー因子とする他者との語りや関わりを目的とした集団活動をプログラムに追加した.
【結果】X+75日,集団活動において笑顔が増え,「楽しい」という情緒変化が認められた.また,相手に相槌,視線を向けるなどの認知行動や意欲の向上が認められた.X+89日,食事や排泄時の食器や便器の認知が可能となり,主体的な作業の実行状況に改善を認めた(FIM合計54).また食事,排泄ともに満足度は8/10点となった.
【考察】当初,活動に対するアプローチでは明らかな改善が認められなかったが,回想法やピアサポート,自発的なコミュニケーションの改善を目的とした集団活動において〈認識〉〈情緒〉をキー因子とした作業療法の方針転換を行った.当初の「誰の役にも立てない」という認識情緒の中で活動の拡大を図っても成功体験による自己肯定感の向上には繋がらず,主体的な実行状況に変化は認めなかったが,集団活動を通した認識情緒をキー因子とすることで社会的欲求,承認欲求が満たされ,人としての存在を肯定,「自分にもできるかも」との主体的な作業遂行変化や,他者の会話を通して笑顔や感情が豊かになることで認知能力の改善にも繋がったと考える.本症例を通し,作業遂行の課題を〈認識〉〈情緒〉を含む6因子から多角的かつ同列的に捉え,関係性を推論するOPAT6を用いることで,作業療法の対象とすべき因子が抽出されやすくなると推察された.