第56回日本作業療法学会

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一般演題

心大血管疾患

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学)

[OB-1-2] 口述発表:心大血管疾患 1経カテーテル大動脈弁置換術施行症例の退院時抑うつは入院時精神機能と関連する―症例対象研究―

高瀬 良太1秋好 久美子12帆足 友希1高橋 尚彦2 (1.大分大学医学部附属病院リハビリテーション部,2.大分大学医学部循環器内科・臨床検査診断学講座)

【はじめに】
心疾患患者は退院後に身体についての不安から抑うつ状態に陥ることが少なくない (David L Hare,2014). 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の対象となる高齢者は低栄養や認知症, うつ状態など背景に多様性があり (Michael Sola, 2016), 退院時に抑うつ状態を示す症例を経験するが, 身体機能を含めその他の要因との関連性については不明な点が多い.
【目的】
TAVI実施症例における退院時抑うつ状態に影響を与える因子を後方視的に検討すること.
【対象】
対象は, 当院で2019年4月から2021年12月までにTAVIを施行した38例とした. 抑うつの有無はHospital Anxiety and Depression Scale (HADS)を用い, 8点以上を抑うつありとした. 診療記録より年齢, 性別, BMI, 在院日数, 既往歴, 同居の有無, 入退院時の心エコー図検査, 血液生化学検査, 退院時の歩行機能, BI, SPPB, Moca-J, 面接記録を調査した. また入院前のIADL評価として改定Frenchay Activities Index (FAI)を調査した. 統計解析はSPSS (ver25, IBM)を用い, Shapiro-Wilk検定で正規性を確認した. その後, 2群間の差は対応のないt検定, Mann-WhitneyのU検定, χ2検定を用い, 退院時抑うつ状態と各因子における相関関係についてはSpearmanの順位相関分析を用いて解析した.また, HADSを従属変数, 相関関係を認めた因子を独立変数として強制投入法を用いた重回帰分析で解析した. 有意確率は5%未満とした. 本研究はヘルシンキ宣言に基づき, 本人の同意を得て実施している.
【結果】
抑うつなし群29例(84.7±4.1歳), 抑うつあり群9例(83.4±2.5歳)であった. 抑うつあり群の同居率は78%であった. 入退院時の不安や抑うつ, 改定FAIのみに有意な差を認めた. また, 退院前抑うつと入院時抑うつ, 退院時不安に中等度の正の相関を認めた(r =0.687, p<0.001)(r =0.638, p<0.001). 改定FAIには中等度の負の相関を認めた(r =- 0.515, p=0.001). 重回帰分析の結果は入院時抑うつ(β=0.516, p<0.001, 95%CI:0.278-0.745), 退院時不安(β=0.250,p=0.043, 95%CI:0.009-0.576), 改定FAI(β =-0.248, p =0.037, 95%CI:-0.219 ‐ -0.007)であり, R2は0.649で適合度は高かった. ダービン・ワトソン比は1.999で問題は見られなかった. 術前に抑うつを認めた症例は, 手術に対する不安や恐怖感の訴えがあり, 術後は帰宅後の身の回り動作や買い物等の実施可能性に関する心配や同居家族への介護負担増加の配慮, 心臓が今後どの程度維持できるのか等の発言が聞かれた.
【考察】
心疾患患者では退院時抑うつ状態が高い程, 再入院率の増加と関連していると報告(Fiorenza Angela Meyer, 2015)があり, 評価と介入の重要性が示唆される. しかし, TAVI実施後, 大多数は術後早期に退院や転院となることが多く心理的介入に至らないことが多い. 抑うつ感の強い症例は将来の生活イメージが描きにくく, 家族の負担感が増す可能性の不安や自分自身の将来への不安が強くなる可能性が考えられる. そのため, 入院時抑うつの高い症例に対しては, 術前後の面接による抑うつ因子の検討やIADLの評価,本人および家族友人を含めた他職種との情報共有や連携, フォローの継続が重要である.