第56回日本作業療法学会

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一般演題

心大血管疾患

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学)

[OB-1-3] 口述発表:心大血管疾患 1大血管術後に生じた脊髄梗塞患者の障害像と術後6か月後時の機能評価

仁木 裕也1西 悦子1堀江 翔1麦井 直樹1八幡 徹太郎2 (1.金沢大学附属病院リハビリテーション部,2.金沢大学附属病院リハビリテーション科)

「はじめに」
 大血管の手術では,脊髄梗塞による対麻痺が重篤な合併症の一つとして知られている.その障害像は大動脈の遮断時間や側副血行路の有無などによって多彩になると考えられている.これまで,脊髄梗塞患者の機能予後や生存率を調査した報告があるが,これらの報告では発症原因別での検討がなく,また梗塞レベルの影響については論じられていない.これまで大血管術後に限定した脊髄梗塞患者の障害像や機能予後を調査した報告はなく,その障害像や機能的な転帰は渉猟し得ない.今回,大血管術後に限定した脊髄梗塞患者の障害像,障害の程度を明らかにし,初期臨床像と長期転帰について検討した.
「対象と方法」
2016年から2020年までに当院に入院し,大血管術後に脊髄梗塞を発症した7例を後方視的に調査した.初期臨床像をASIA impairment Scale(AIS),国際対麻痺医学協会(IMSOP)による分類に区分し評価した.IMSOPは前脊髄動脈症候群(ASAS),後脊髄動脈症候群(PSAS),ブランセカール症候群(BSS),完全脊髄切断(CSCT)により分類した.調査項目は年齢,性別,術前危険因子,術式,梗塞レベル,術後合併症,せん妄の有無,ICU滞在日数,端座位開始までの期間,車いす座位開始までの期間,入院日数,転帰,転院前Barthel Index(BI)とした.その後,術後6か月後の機能障害をmodified Rankin Scale(mRS)で評価した.術前危険因子はJAPAN SCOREのPARTDより引用した.本研究は当院倫理員会の承認を受け実施した(No.2021-309).利益相反に係る事項はない.
「結果」
 対象者のプロフィールを示す.対象の術前ADLは全て自立しており,社会生活も自立していた.年齢は平均68.7±8.2歳,性別は全例男性であった.術前危険因子は喫煙歴7例,高血圧症7例,24時間以内の意識障害4例,糖尿病3例,精神神経障害の既往1例,脳障害の既往1例であった.術式は胸腹部人工血管置換術,弓部置換術,腹部人工血管置換術,胸部ステントグラフト内挿術などであった.梗塞レベルはTh10が6例,Th12が1例であった.初期臨床像はAISのAかつCSSTが3例,AISのBかつASASが3例,AISのCかつASASが1例であった.術後合併症は播種性血管内凝固症候群や創部離開,膿胸,敗血症,多発脳梗塞などを呈した.せん妄は3例に認めた.ICU滞在日数は平均19.6日±14.8日,端座位開始までの期間は平均9.8日±4.0日,車いす座位開始までの期間は平均14.9日±7.1日,入院日数は平均70.6日±30.7日,全例転院し転院前BIは中央値で10点であった.入院中は全例理学療法,作業療法を実施した.術後6か月後時の評価はAISの B,Cの症例がmRS Grade2,3まで改善を認めたが5例は有意な機能改善は得られなかった.特に発症早期におけるAISのAは重度の障害を残した.最終転帰は自宅退院が3例,その他4例は施設入所した.
「考察とまとめ」
 脊髄損傷後,一般的にAISの変化する時期について,受傷から約80%が3か月以内に変化することが知られている.また60歳以上の脊髄損傷患者を対象とした報告では,受傷から急性期病院への入院日数は平均42.4日としている.今回調査した結果では,当院入院期間が長く,術後6か月後の時点で機能的に変化がない症例がほとんどであった.その一因として,年齢や大血管術後特有の合併症による長期ICU入室や離床の遅延が考えられた.大血管術後の脊髄梗塞では一般的な脊髄損傷よりも入院期間が遷延しADL獲得に難渋する可能性がある.急性期の訓練は,多臓器にわたる合併症のリスクを考慮しながら円滑に回復期へ移行できるよう可及的早期に訓練を進め,二次的合併症の予防やADL獲得を最大限支援することが重要である.