[OB-1-5] 口述発表:心大血管疾患 1『心不全患者の作業療法における生活行為パンフレットの活用』
【はじめに】平成26年度の診療報酬改定により,心大血管リハビリテーション(以下心リハ)に対して作業療法の算定が可能となったが,全国の施設における循環器疾患に関わる作業療法士(以下OT)は少なく,ADL・IADLの介入方法は各施設で統一されていない.日本作業療法士協会によると,「作業内容や環境,個人により作業負荷は変化しやすく,作業強度を判断することは難しく,作業の種類が心大血管に及ぼす影響を考える必要がある」とされている1).しかし,心不全発症後は,活動範囲が制限されやすく,退院後にどの程度の心負荷をかけてよいのか不安を抱えたまま日々の生活に戻っていることがある.今回,滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部と「心不全患者の生活行為パンフレット」を協働して作成した.そのパンフレットを活用することで家庭内役割の再獲得を果たし,自宅退院となった症例を経験したので報告する.当院倫理指標に従い,学会発表に際して患者・家族から同意を得ている.
【症例紹介】80歳代/女性[診断名]急性心不全,肺うっ血[既往歴・家族歴]高血圧[現病歴]自宅にて呼吸苦が出現,救急車要請となり当院へ搬送.搬送時,呼吸停止,徐脈であり挿管となる.当院入院時LVEF:30%,FIM18点[ニーズ](患者)「息子の食事を作りたい.」 (家族)「トイレや身の回りのことが出来るようになって欲しい.」[家族構成]息子と2人暮らし[生活歴]屋外は杖を使用して自立,主婦[自宅環境]戸建て,洋式生活[認知機能]MMSE:28/30点,FAB:14/18点
【パンフレット内容・方法】各ADL・IADLの項目について,心不全症状や心負荷を軽減した動作方法,環境調整や福祉用具の提案などを記載した用紙を作成.収集した患者個人の心身機能や生活状況から,目標とする生活行為にあった項目をOTが選択・指導する.
【経過】介入1週間から2週間:ベッドサイドからのセルフケア拡大を目的にOT開始,整容・排泄・更衣動作から介入.Borg Scale11~13の運動強度,Karvonen法を用いて,目標至適心拍数93~113回/分.心拍数などを確認しながら,生活行為パンフレットを使用し,過負荷を避けた方法を定着するために反復練習を行い,指導内容を心リハカンファレンスなどで多職種と共有.介入3週間から4週間:病棟内ADLが杖歩行にて自立.家庭内役割の獲得に向けて,洗濯・調理動作を実施.介入5週間から6週間:退院前訪問を実施,患者と同内容のパンフレットを使用して家族指導も行う.62病日目に自宅退院(FIM120点)となる.
【まとめ】循環器疾患患者は増加しており,今後も様々な側面を含めたOTの介入が重要である.今回,滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部と協働し「生活行為パンフレット」を作成した.収集した情報から患者の生活行為にあったパンフレットを選択し,それを使用しながら患者・家族指導を行うことは,安全な家庭内役割の再獲得,「息子に食事を作りたい」というニーズの達成に有用であったと考えられる.心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインによると,「セルフケアを向上させ持続させるには,知識だけでなく,自己の成功体験や他者の体験談などを通じて自己効力感を得られることが重要」とされている2).今後は,他の同疾患患者へも使用を重ねながらパンフレットを改良し,院内での共有に留まらず,病院から地域へと多職種連携や普及を図っていきたい.
【参考文献】
1)日本作業療法士協会学術部:心大血管疾患の作業療法,(社)日本作業療法士協会:32-37,2011
2)牧田茂,安隆則 班長:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版):108-109,2021
【症例紹介】80歳代/女性[診断名]急性心不全,肺うっ血[既往歴・家族歴]高血圧[現病歴]自宅にて呼吸苦が出現,救急車要請となり当院へ搬送.搬送時,呼吸停止,徐脈であり挿管となる.当院入院時LVEF:30%,FIM18点[ニーズ](患者)「息子の食事を作りたい.」 (家族)「トイレや身の回りのことが出来るようになって欲しい.」[家族構成]息子と2人暮らし[生活歴]屋外は杖を使用して自立,主婦[自宅環境]戸建て,洋式生活[認知機能]MMSE:28/30点,FAB:14/18点
【パンフレット内容・方法】各ADL・IADLの項目について,心不全症状や心負荷を軽減した動作方法,環境調整や福祉用具の提案などを記載した用紙を作成.収集した患者個人の心身機能や生活状況から,目標とする生活行為にあった項目をOTが選択・指導する.
【経過】介入1週間から2週間:ベッドサイドからのセルフケア拡大を目的にOT開始,整容・排泄・更衣動作から介入.Borg Scale11~13の運動強度,Karvonen法を用いて,目標至適心拍数93~113回/分.心拍数などを確認しながら,生活行為パンフレットを使用し,過負荷を避けた方法を定着するために反復練習を行い,指導内容を心リハカンファレンスなどで多職種と共有.介入3週間から4週間:病棟内ADLが杖歩行にて自立.家庭内役割の獲得に向けて,洗濯・調理動作を実施.介入5週間から6週間:退院前訪問を実施,患者と同内容のパンフレットを使用して家族指導も行う.62病日目に自宅退院(FIM120点)となる.
【まとめ】循環器疾患患者は増加しており,今後も様々な側面を含めたOTの介入が重要である.今回,滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部と協働し「生活行為パンフレット」を作成した.収集した情報から患者の生活行為にあったパンフレットを選択し,それを使用しながら患者・家族指導を行うことは,安全な家庭内役割の再獲得,「息子に食事を作りたい」というニーズの達成に有用であったと考えられる.心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインによると,「セルフケアを向上させ持続させるには,知識だけでなく,自己の成功体験や他者の体験談などを通じて自己効力感を得られることが重要」とされている2).今後は,他の同疾患患者へも使用を重ねながらパンフレットを改良し,院内での共有に留まらず,病院から地域へと多職種連携や普及を図っていきたい.
【参考文献】
1)日本作業療法士協会学術部:心大血管疾患の作業療法,(社)日本作業療法士協会:32-37,2011
2)牧田茂,安隆則 班長:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版):108-109,2021