第56回日本作業療法学会

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一般演題

呼吸器疾患

[OC-1] 一般演題:呼吸器疾患 1

Sat. Sep 17, 2022 2:50 PM - 4:00 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:佐野 哲也(聖隷クリストファー大学)

[OC-1-2] 口述発表:呼吸器疾患 1在宅酸素療法導入後,復職を目指した症例―在宅酸素療法使用者の復職と現状―

田口 真衣1山口 卓巳13井上 慎一2小林 正樹1内田 智子4 (1地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター西市民病院リハビリテーション技術部,2地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立西神戸医療センターリハビリテーション技術部,3神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域,4神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域)

【はじめに】在宅呼吸ケア白書にて,在宅酸素療法(HOT)使用者の就労について一部言及されているが,復職支援の報告は少ない.今回,HOT導入後,復職を目指した症例を担当した.その経過・結果について以下に報告する.なお報告に際し,症例から同意を得ている.
【症例紹介】気管支拡張症の50歳代男性で,HOT未導入であった.入院前の修正MRC息切れスケールはgrade0で,運動制限はなかった.X日に息切れ増悪,当院紹介をされ,慢性Ⅱ型呼吸不全増悪と肺性心の診断で緊急入院となった.社会背景として,三階家に認知症疑いの妻,長女,長男と同居していた.仕事は営業職で,半年前に転職していた.身体障害者手帳3級を取得していた.
【初期評価】X+2日に実施.非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)中だった.身体機能は保たれており,基本動作は自立であったが,動作時にSpO2が88%と低下した.復職に対しては,HOTによる行動制限や見た目の問題から,心配と不安を訴えられたが,復職を強く希望された.NRADLは12点であった.
【経過】X+4日にはNPPVを完全に離脱し,終日ベンチュリ―マスク使用となった.X+7日,酸素デバイスを鼻カヌラ(NC)に変更,復職に向け,HOTのデバイスを検討した.職種,自宅環境から車移動・徒歩移動,階段昇降の獲得が必要であった.OTからは液体酸素を推奨,症例はポータブルタイプの酸素濃縮器や酸素ボンベにも興味があったため,全てを試せる環境を用意した.後にHOTのデバイスは液体酸素に決定した.動作指導により,HOT操作やADLは自立,連続歩行はSpO2を90%以上に保ちながら300m以上可能となった.
【結果】酸素流量は,屋内は液体酸素親機(親機)を使用して2~3L/分(入浴のみ3L/分),屋外は液体酸素子機(子機)を使用して3~4L/分(階段上りのみ4L/分)とした.退院時はNRADLが43点,HADが不安8点,うつ3点であった.退院2ヵ月後に,書面と電話で聴取したところ,復職は実現しなかった.職場から「親機を会社に置く事は可能だが,車も運転するし,もし勤務中に倒れられたりしても面倒が見られない」と指摘があった.症例は「仕事はできると思っていたが,絶対倒れないと自信をもって言い切れなかった」と退職の運びとなった.また,「配置転換は,転職間もない事などにより相談ができなかった.酸素は下がるが,息切れはない.家族のためにまだ働きたい」と語られた.NRADLは59点,HADは不安8点,うつ7点であった.
【考察】退院時に症例のADLは自立しており,身体機能も入院前程度まで改善がみられ,動作時の息切れの自覚もなかった.そのため症例自身は,家庭復帰・復職も可能と考えた.OTは,事務職など身体負荷の少ない部署への転向が望ましいが,営業職での復職も可能と推察していたが,復職には至らなかった.その原因を考察する.1つ目はHOTによる活動制限が生じることが原因と考える.今回導入した液体酸素は充填作業が必要である.そのため使用流量によっては,仕事中に複数回の親機での充填作業が必要なため,活動制限になり得る.また,2つ目は職場側が言われた「倒れても面倒見られない」という言葉から推察すると,世間の呼吸器疾患の病態理解が進んでいない可能性,HOTの安全性に対する理解が乏しい事が指摘できる.以上のことから,HOT導入しての復職支援では,症例に対する身体機能・ADLに着目してのHOTの選定・動作指導だけでなく,職場への情報提供・環境調整も必要であったと考える.呼吸ケア白書では,アンケート対象者のうち復職可能であった人はHOT未導入者で32%であるのに対し,HOT導入者はわずか10%である.今後,HOT使用者の復職支援を推進していく上で,OTはHOT導入者の復職支援に関しての報告を蓄積する事が急務であると考える.