第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第4会場 (RoomA)

座長:田村 大(秋田労災病院)

[OD-1-4] 口述発表:運動器疾患 1肘部管症候群に対するNerve gliding exercisesを主とした保存療法

西出 義明1三幡 輝久2小田 幸作3森 拓美1竹田 敦4 (1もり整形外科・リウマチ科クリニック,2大阪医科薬科大学,3おだ整形外科リウマチ科クリニック,4第一東和会病院)

【緒言】肘部管症候群(以下,CuTS)の痺れや筋力低下の症状に対するNerve Gliding Exercise(以下,NGE)を主としたセラピィの効果を第26回日本ハンドセラピィ学会などに発表した. 今回, 症例数を増やし統計学的検討ができたので報告する. 本発表に際し患者の方より情報提供の同意を得ている.
【対象】CuTSの診断にて内服治療で改善なく,ガングリオンの疑いや尺骨神経の脱臼がなく, 保存療法を第一選択し,2カ月以上NGEを主としたセラピィを施行したCuTS 25例25手,男性15例15手,女性10例10手年齢平均58.7±19.2歳である. 合併症は,変形性肘関節症(以下,OA)8例, 肩・肘骨折後3例,糖尿病5例(透析1例)であった.セラピィ開始までの期間は平均13.5±18.9ヶ月,セラピィ期間は平均27.2 ±25.9週であった. 交代浴, 前腕筋群の伸張, 筆者らの尺骨神経のNGE Ex.1)を施行した.
【方法】S-W test, Elbow flexion test (以下,EFT), 痺れ(VAS),粗大筋力の握力,母ー小指pulp pinchをセラピィ開始時と最終評価時で検討した.またS-W testを除く事項をWilcoxonの符号付順位検定,Nonparametric分析で2群間を比較検討した. 痺れ(VAS)についてはセラピィ1回目直後も検討した.
【結果】手術に至った症例は,25手中1手で糖尿病と腎不全を合併し透析を行なっていた. S-W testではセラピィ開始時3.61であった15手は全て2.83に,4.31であった4手は1手が2.83に3手が3.61に改善した. EFTはセラピィ開始時23例/25例(陽性率92%)が陽性(平均26.1秒)であったが最終評価時には4例/25例(陽性率16%), 開始時平均26.1±19.1秒,が最終評価時は平均55.6±11.7秒で有意に改善した. 握力は, セラピィ開始時が平均20.9±10.5kgが最終評価時には平均27.9±10.4kgに, 母ー小指pulp pinchは, 開始時平均0.9±1.0kgが最終評価時には2.0±1.0kgに,痺れは,VASで開始時平均 6.3±2.8/10がセラピィ直後に3.2±3.0/10, 最終評価時には0.6±1.6/10とそれぞれ有意に改善した(p<0.001).
【症例提示】60歳代後半,男性.右CuTS. 左右OA
現病歴 4ヵ月前より特に誘因なく右手指の痺れと脱力感が生じた.内服治療を行うも効果がなく手術が検討されたが内科的理由と本人が拒否しセラピィ開始となる.
開始時評価 感覚はS-W testで右手掌尺側・小指掌側4.31~6.65, 環指掌側4.31と低下していた. EFTは1秒で陽性,痺れはVAS 8.3/10であった.握力は右24kg(左28kg), 母-小指pulp pinchはに右0kg(左1.4kg)であった. 右手での箸動作が困難であった. 神経伝導速度はMCV32.8m/s と遅延し,SCVは導出不能であった.
症例の経過と最終評価 痺れは1回のセラピィ直後にVAS 8.3/10から6.3/10に改善した. セラピィ開始7カ月後,S-W testは2.83,EFTは60秒で陰性, 痺れもVAS 0/10と改善した. 右手の握力は28kg(開始時24kg), 母-小指pulp pinchも1.0kg(開始時0kg)と増加した.ADLでも右手での箸動作や錠剤の出すなど全て可能となった. 神経伝導速度はセラピィ開始2カ月後, MCV37.5m/sに, 7ヵ月後にはMCV43.8m/s,SCV45.7m/sに改善した.
【考察】麻田は「軽微な外傷後にCuTSを発症することがあり神経周囲,前腕筋部での顕著な瘢痕化,癒着による絞扼所見がみられた.」としている.神経脱臼等を伴わないCuTSにおいて,神経滑走障害と思われる症状悪化の症例がみられる. 軽・中等度のCuTSにはNGEにより神経滑走を促し癒着を軽減させ軸索流を改善させることで,痺れや筋力を改善できる可能性が示唆され, 保存療法のfirst choiceとなり得ると思われた.
1)西出義明,阿部宗昭,三幡輝久ほか:肘部管症候群の保存療法.日ハ会誌7:45-49,2014.