[OD-3-3] 口述発表:運動器疾患 3人工膝関節置換術後に対処リストを用いた作業療法実践のケースシリーズによる検証
【目的】関節痛の代表疾患に変形性膝関節症が挙げられ,人工膝関節置換術(以下,TKA)により術後の生活の質(以下,QOL)が向上されるといった効果が得られている(Shan L et al,2005).しかし,TKA後患者の約20%が慢性疼痛に至ることが報告され(Beswick AD at al,2012),日常生活動作や社会活動の参加に影響をもたらすことが報告されている(Breivik H et al,2006).また,術後早期の疼痛は術後早期の心理的要因を媒介し,術後長期の生活障害に影響することから,術後早期より疼痛や心理的要因に対する介入の重要性が示唆されている(Hiraga Y et al,2019).筆者らは,TKAを含む変形性膝関節症術後患者に対して,認知行動療法の代表的な技法の一つである対処スキルを用いた作業療法(以下, OT)を1事例に実践した結果,疼痛や心理的要因の改善を報告した(原ら,2020).しかし,1事例であることから効果検証を十分に行えない限界があった.そのため,本研究の目的は数例の事例をケースシリーズとして分析し,対処スキルを用いたOT実践の有効性を探索することである.
【対象】研究デザインはケースシリーズであり,対象者はTKAを施行し,筆頭筆者によるOTを実施した患者5名であった(女性5名:A〜E氏,平均年齢74±6.8歳).本研究は当院における倫理審査委員会の審査及び承諾を得た.
【方法】TKA後患者に対してOT時に対処スキル獲得のため対処リストを導入した.対処リストとは,有効な対処スキルの探索のため,疼痛や不安状況に対してどのような対処をすれば,どのような結果になったかを記載するツールである.各評価指標としてCanadian Occupational Performance Measure(以下,COPM),疼痛をNumerical Rating Scale(以下,NRS),Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS),EuroQol 5dimension(以下,EQ-5D),Modified Fall Efficacy Scale(以下,MFES),Pain Disability Assessment Scale (以下,PDAS)をOT開始時と終了時で測定した.また対処スキルの効果指標として,採択された有効な対処スキルの総数を求めた.統計学的分析にはMann–WhitneyのU検定を用いて各評価指標の比較検討を行った.また,効果量(r)を算出し,0.1≦r<0.3を効果量小,0.3≦r<0.5を効果量中,0.5≦rを効果量大とした.
【結果】A氏が28通り,B氏が23通り,C氏が21通り,D氏が11通り,E氏が13通りの有効な対処スキルを獲得した.具体的な対処スキルでは疼痛状況に対して「アイシング」や「服薬」に加えて「痛みについて話す」「ストレッチをする」「散歩をする」「音楽を聴く」「編み物をする」などの有効な内容であった.また,それぞれの患者より「痛い時にこうしようと思えるようになって良かったです」など疼痛への対処に能動的な発言を認めた.各評価指標では,COPM,NRS,HADS,EQ-5D,PDASに有意な改善を認めたが(p<0.05),MFESには有意な改善を認めなかった.効果量(r)はCOPM,NRS,EQ-5D,MFES,PDASにて0.5≦r(大)であった.
【考察】本ケースシリーズから対処スキルを導入したOT実践により疼痛や心理的要因,QOL,生活機能に有効であることが示唆された.先行研究(Riddle DL et al,2011)においてTKA後患者に対して対処スキルを取り入れた実践により疼痛や生活機能,心理的要因への改善を認めたと報告している.そのため,本研究においても対処スキルを取り入れたOT実践により,疼痛や生活機能で有意な改善を認めたと考えられる.今後は対象者数を増大させ介入研究へ発展させ有用性を検証していく必要がある.
【対象】研究デザインはケースシリーズであり,対象者はTKAを施行し,筆頭筆者によるOTを実施した患者5名であった(女性5名:A〜E氏,平均年齢74±6.8歳).本研究は当院における倫理審査委員会の審査及び承諾を得た.
【方法】TKA後患者に対してOT時に対処スキル獲得のため対処リストを導入した.対処リストとは,有効な対処スキルの探索のため,疼痛や不安状況に対してどのような対処をすれば,どのような結果になったかを記載するツールである.各評価指標としてCanadian Occupational Performance Measure(以下,COPM),疼痛をNumerical Rating Scale(以下,NRS),Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS),EuroQol 5dimension(以下,EQ-5D),Modified Fall Efficacy Scale(以下,MFES),Pain Disability Assessment Scale (以下,PDAS)をOT開始時と終了時で測定した.また対処スキルの効果指標として,採択された有効な対処スキルの総数を求めた.統計学的分析にはMann–WhitneyのU検定を用いて各評価指標の比較検討を行った.また,効果量(r)を算出し,0.1≦r<0.3を効果量小,0.3≦r<0.5を効果量中,0.5≦rを効果量大とした.
【結果】A氏が28通り,B氏が23通り,C氏が21通り,D氏が11通り,E氏が13通りの有効な対処スキルを獲得した.具体的な対処スキルでは疼痛状況に対して「アイシング」や「服薬」に加えて「痛みについて話す」「ストレッチをする」「散歩をする」「音楽を聴く」「編み物をする」などの有効な内容であった.また,それぞれの患者より「痛い時にこうしようと思えるようになって良かったです」など疼痛への対処に能動的な発言を認めた.各評価指標では,COPM,NRS,HADS,EQ-5D,PDASに有意な改善を認めたが(p<0.05),MFESには有意な改善を認めなかった.効果量(r)はCOPM,NRS,EQ-5D,MFES,PDASにて0.5≦r(大)であった.
【考察】本ケースシリーズから対処スキルを導入したOT実践により疼痛や心理的要因,QOL,生活機能に有効であることが示唆された.先行研究(Riddle DL et al,2011)においてTKA後患者に対して対処スキルを取り入れた実践により疼痛や生活機能,心理的要因への改善を認めたと報告している.そのため,本研究においても対処スキルを取り入れたOT実践により,疼痛や生活機能で有意な改善を認めたと考えられる.今後は対象者数を増大させ介入研究へ発展させ有用性を検証していく必要がある.