第56回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第4会場 (RoomA)

座長:佐々木秀一(北里大学病院)

[OD-4-2] 口述発表:運動器疾患 4重度熱傷後に両下腿切断となりPTSD関連症状がみられた高齢者に対し早期から作業療法を実践した1症例

新屋 徳明1田中 翔太1山内 康太1後藤 圭1鈴木 裕也1 (1社会医療法人 製鉄記念八幡病院リハビリテーション部)

【はじめに】熱傷は身体障害に加え,睡眠障害,うつ病,PTSDなどの精神症状を引き起こす.特に重度熱傷はPTSDを誘発しやすく,長期的なリハビリを阻害する可能性がある.先行研究にて,熱傷後のうつ病とPTSDの有病率はそれぞれ13~23%,13~45%であり,20%が入院2週間後にPTSDを認め,3か月後に31.5%に増加したと報告している.今回,重度熱傷後に両下腿切断となった高齢者に対し早期から作業療法を実践し,抑うつやPTSD関連症状の軽減が図れたので以下に報告する.発表に関しては十分な説明を行い同意を得ている.
【事例紹介】
70代後半の男性.妻・長男夫婦・孫と同居しADLは自立,職業は農家をされていた.野焼き中に両下肢に火が燃え移り,救急搬送後に挿管し鎮静管理であった.熱傷受傷面積35%,熱傷指数33.5,熱傷予後指数110.5の重度熱傷と診断され,救命目的に第3病日に左膝関節離断・断端形成,第7病日に右膝関節離断・断端形成を施行し,その後デブリードマンや植皮術など計5回の手術を施行.
【作業療法評価】
第11病日よりリハビリ開始し,JCSⅠ-3,MMSE25点と日常会話や指示理解に問題なかったが見当識の低下が見られた.握力は右11.1㎏,左10.0kg,GMTは両上肢4~5,体幹筋2,ROMは両股関節屈曲90°.ADLはBI15点,FIM50点.精神心理的評価はHADSで不安11点・抑うつ11点と早期から不安感が強く,ICU退室の第53病日にはIES-R20点とPTSD関連症状が出現した.
【介入・経過】
術後に覚醒した際は,両下腿が切断されている事に現実を受け止めきれない状態であった.また,毎日のバーンバスによる疼痛から精神的苦痛も大きく,家族や仕事に対しての不安感から悲観的な訴えが聴取されたため,その都度訴えを傾聴し,車椅子での屋外散歩など気分転換を行うことで精神的支援を図った.その後,第16・23病日に植皮術が施行され,約2週間ベッド上安静の状態に加え,ICUという特殊な環境から認知機能の低下が懸念された.第29病日の離床再開時にはCAM-ICU陽性,MMSE20点と簡単な会話は可能だが,見当識や状況理解に乏しい状態であった.第42病日にはCAMICU陰性,MMSE27点と徐々に認知機能の改善認めたが,この時期から下腿切断に至ったことに現実味を帯びてきたのか,悲観的な訴えが再度聴取され,HADS不安8点・抑うつ18点と抑うつ傾向が増悪し,リハビリを拒否される日もあった.ICU退室後は,環境変化による更なる不安と当時の出来事への回避症状や夢への出現,不眠が続きPTSD関連症状が出現した.また,コロナ禍による面会制限がより精神的ストレスを増強させ,家族も本人の状況を直接確認出来ないことや先の見えない状況に不安感が強い様子であった.そこで,交換日記を用いてリハビリの状況を写真で添付し家族への情報提供を開始した.家族からも本人が心配していた農家や家族の近況が記載され,お互いの状況把握が出来ることで不安感の軽減に繋がっていた.さらに,孫や親戚からもメッセージが記載され本人の楽しみとなり,リハビリを前向きに取り組むようになった.第80病日にはIES-R33点と一時的にPTSD関連症状が顕著となったが,徐々に改善し退院時のIES-Rは0点,HADSは不安1点・抑うつ3点と残存したが,熱傷に対する不安感はなく,入院の長期化による影響が強かった.
【考察】
本症例は熱傷後に突如両下腿切断となり早期から不安感が強く,PTSD関連症状が見られ,コロナ禍による面会制限から,より一層精神障害が懸念された.今回,早期から作業療法を行った結果,抑うつやPTSD関連症状の軽減に繋がり,前向きにリハビリに取り組むことができ,交換日記を用いることで本人に加え家族の精神的フォローも図れた.