[OD-5-5] 口述発表:運動器疾患 5鎖骨を残存した肩甲胸郭間切断者における筋電電動義手の作業療法経験
【はじめに】肩関節離断では,三角筋前部と三角筋後部や,大胸筋と肩甲骨内側の筋を義手の制御に利用して筋電電動義手(以下,筋電義手)操作を試みたという報告があるが,肩甲胸郭間切断においては,筋電義手操作を獲得したという報告はほとんどない.要因として,採取筋が限られることや,交互収縮が困難であることが考えられる.今回,左上肢引き抜き損傷後に,鎖骨を残存し肩甲胸郭間切断となった症例に対し,僧帽筋上部線維(以下,僧帽筋)と大胸筋を義手の制御に利用した筋電義手操作訓練を行い,筋電義手操作の獲得に至った作業療法経験を報告する.
【倫理的配慮】症例には本発表に関して口頭にて説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】20歳代の右利きの男性.職場でローラーに左上肢を巻き込まれ,左上肢引き抜き損傷による左肩鎖関節脱臼,左腋窩動脈損傷を受傷し,コイル塞栓術が施行された.可能な限り左上肢を温存する方針であったが,壊死の進行を認め,受傷から31日後に肩甲胸郭間切断術が施行された.鎖骨周囲の側副血行路が発達していたため,鎖骨は取り除けず全て残存となり,肩甲骨は肩峰端も含めて除去となった.独居であり,自宅や職場で使える義手を要望された.
【作業療法経過】
作業療法は受傷後3日目より開始した.義手のオリエンテーションは,切断術後に各義手の特徴を写真や動画などで説明し,症例の理解を深めた.筋電義手の制御は,僧帽筋と大胸筋の交互収縮が可能であることをMyoBoy®で確認し,手先具が大胸筋で閉じ,僧帽筋で開く2サイト2ファンクションとした.電極の設置は,大胸筋が第2肋軟骨部付近,僧帽筋が鎖骨の外側付近とした. 採取筋の交互収縮練習は,MyoBoy®を用いて,筋収縮の強度と速度を確認しながら行った.疲労なく筋電位をコントロール可能となったため訓練用仮義手(以下,仮義手)の作製を開始した.
仮義手のソケットは,左肩甲帯と左胸郭を覆い,前後を胸郭バンドハーネスで固定した.ソケットに穴をあけ,通気性を確保した.左鎖骨に沿って窪みを作り,窪みの縁にクッションを設置し,鎖骨の当たりを防止した.電極はソケット内に埋め込んだ.ユニバーサル肩継手,マニュアルロック肘継手,屈曲リスト付ハンド(比例制御)を使用した.肩継手と肘継手の操作は非切断肢で操作することとした.
基本操作訓練は,仮義手の着脱練習を行った.また,筋収縮の強度や速度とハンドの開閉スピードの関係を確認しながら,スムーズに操作ができるよう練習した.そして,座位や立位など様々な姿勢で物品の把持を行い,自身の姿勢や物品の特性に合わせて,各継手の角度やハンドの開閉幅を調節し,誤作動なく操作する練習を行った.
応用操作訓練は,仮義手を補助手として使用し,上肢挙上位や足元での紐結び,革細工などの作品作りを通して,非切断肢と協調した両手動作の向上を図った.ADL/IADL訓練は,仮義手装着下での上着着脱練習や,調理や洗濯などの家事動作練習を実施した.そして,職場の事務作業などを練習し,習熟を図った.
上肢切断ADL評価表を用いて,全87項目の内,普段行っている72項目で評価し,「動作可能」や「スムーズに動作可能」な項目は,71項目であった.
【考察】本症例は,肩甲胸郭間切断となったが筋電義手操作を獲得することができた.要因として,鎖骨が残存したことで,僧帽筋と大胸筋の交互収縮が得られたことが挙げられる.しかしながら,大胸筋は骨停止しておらず,今後も現状の筋活動量が維持できるかどうかや僧帽筋の収縮により鎖骨が転位してくる可能性も考えられ,長期的に経過を追い,検証する必要があると考える.
【倫理的配慮】症例には本発表に関して口頭にて説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】20歳代の右利きの男性.職場でローラーに左上肢を巻き込まれ,左上肢引き抜き損傷による左肩鎖関節脱臼,左腋窩動脈損傷を受傷し,コイル塞栓術が施行された.可能な限り左上肢を温存する方針であったが,壊死の進行を認め,受傷から31日後に肩甲胸郭間切断術が施行された.鎖骨周囲の側副血行路が発達していたため,鎖骨は取り除けず全て残存となり,肩甲骨は肩峰端も含めて除去となった.独居であり,自宅や職場で使える義手を要望された.
【作業療法経過】
作業療法は受傷後3日目より開始した.義手のオリエンテーションは,切断術後に各義手の特徴を写真や動画などで説明し,症例の理解を深めた.筋電義手の制御は,僧帽筋と大胸筋の交互収縮が可能であることをMyoBoy®で確認し,手先具が大胸筋で閉じ,僧帽筋で開く2サイト2ファンクションとした.電極の設置は,大胸筋が第2肋軟骨部付近,僧帽筋が鎖骨の外側付近とした. 採取筋の交互収縮練習は,MyoBoy®を用いて,筋収縮の強度と速度を確認しながら行った.疲労なく筋電位をコントロール可能となったため訓練用仮義手(以下,仮義手)の作製を開始した.
仮義手のソケットは,左肩甲帯と左胸郭を覆い,前後を胸郭バンドハーネスで固定した.ソケットに穴をあけ,通気性を確保した.左鎖骨に沿って窪みを作り,窪みの縁にクッションを設置し,鎖骨の当たりを防止した.電極はソケット内に埋め込んだ.ユニバーサル肩継手,マニュアルロック肘継手,屈曲リスト付ハンド(比例制御)を使用した.肩継手と肘継手の操作は非切断肢で操作することとした.
基本操作訓練は,仮義手の着脱練習を行った.また,筋収縮の強度や速度とハンドの開閉スピードの関係を確認しながら,スムーズに操作ができるよう練習した.そして,座位や立位など様々な姿勢で物品の把持を行い,自身の姿勢や物品の特性に合わせて,各継手の角度やハンドの開閉幅を調節し,誤作動なく操作する練習を行った.
応用操作訓練は,仮義手を補助手として使用し,上肢挙上位や足元での紐結び,革細工などの作品作りを通して,非切断肢と協調した両手動作の向上を図った.ADL/IADL訓練は,仮義手装着下での上着着脱練習や,調理や洗濯などの家事動作練習を実施した.そして,職場の事務作業などを練習し,習熟を図った.
上肢切断ADL評価表を用いて,全87項目の内,普段行っている72項目で評価し,「動作可能」や「スムーズに動作可能」な項目は,71項目であった.
【考察】本症例は,肩甲胸郭間切断となったが筋電義手操作を獲得することができた.要因として,鎖骨が残存したことで,僧帽筋と大胸筋の交互収縮が得られたことが挙げられる.しかしながら,大胸筋は骨停止しておらず,今後も現状の筋活動量が維持できるかどうかや僧帽筋の収縮により鎖骨が転位してくる可能性も考えられ,長期的に経過を追い,検証する必要があると考える.