第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

神経難病

[OE-1] 一般演題:神経難病 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第6会場 (RoomB-1)

座長:清水 兼悦(札幌山の上病院)

[OE-1-1] 口述発表:神経難病 1パーキンソン病患者に対しInternal Cueを伴う指歩き練習がすくみ足に与える影響

溝本 恭久1片山 脩23壹岐 英正1兒玉 隆之4 (1医療法人瑞心会渡辺病院リハビリテーション科,2国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター予防老年学研究部,3日本学術振興会特別研究員,4京都橘大学健康科学部理学療法学科)

【はじめに】
パーキンソン患者でみられるすくみ現象は下肢(Freezing of gait:FOG)のみでなく上肢(Freezing of upper limb:FOUL )にも出現しFOGとFOULの病態メカニズムは類似していると報告されている(Nutt JG et al, 2011; Vercruysse S et al, 2012).我々のすくみ現象への取り組みとして,指歩き課題開始前にInternal Cue(IC)を付与することで,指歩き時のパフォーマンスの改善を認めた(溝本ら, 2019).今回指歩きと歩行で類似したすくみ現象が生じるパーキンソン病患者に対し,ICを付与した指歩き練習を行うことでFOG改善に奏功した症例を経験したので報告する.なお,対象へ本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た.
【方法】
対象はパーキンソン病男性(80歳代).X日に診断されX+14日に当院訪問リハビリを開始した.ドパコールを処方されたが,特に目標接近時にFOGやFOULが見られた.X+650日にレスパイト入院し,入院でのリハビリを開始した.ADLはFIM運動項目85点,認知機能はHDS-R29点,FAB17点であった.対象から「手を動かすときも歩くときも途中で同じように止まる」と訴えがあったことから, FOGに対する介入をX+651日から約2ヶ月間実施した. FOGの評価はTimed Up & Go Test(TUG)の所要時間と歩数とした.FOULの評価は奥行40㎝幅の机の上で示指-中指で指歩きを繰り返す指歩き課題にて,1分間で指歩きした距離とした.研究デザインはAB型デザインを用い,A期では通常練習(ストレッチ,バランス練習,歩行練習)に加えて,指歩き課題と同様環境下での指歩きの自主練習,週2回FOG評価,FOUL評価を実施した.B期では通常練習に加えて,「40㎝先まで何歩で指歩きを行えるか」というICを付与した指歩きの自主練習,週2回FOG評価とICを付与したFOUL評価を実施した.効果判定はTUGの所要時間,歩数をグラフ化し二項検定を行った.さらにFOG評価とFOUL評価との相関分析をSpearmanの順位相関係数を用い検討した.有意水準は全て5%とした.
【結果】
 TUG所要時間および歩数の平均値はA期17.8±0.9秒,B期12.6±1.4秒,A期30.8±3.0歩,B期20.9±1.7歩でそれぞれ有意な減少を認めた(p<0.05).相関分析では指歩き距離とFOG評価に有意な負の相関関係を認めた(TUG所要時間:r=-0.871,p=0.01 TUG歩数:r=-0.851,p=0.01).また対象からは「指示された通り,どのように動くか想像した後に歩いたり手を動かしたりすると少し動く気がする」との発言が聞かれた.
【考察】
ICは運動課題の特定の構成要素に焦点を払うのに役立ち,運動を自動運動制御から目標志向の制御へ切り替えることですくみ現象を軽減できると考えられている(Peter R, 2010).さらにICを付与した上肢練習を歩行へ転移させるのに,遂行機能の重要性が報告されている(木村, 2020).対象はTUGや指歩き課題時に,3m先の目標物や40㎝先のゴールラインに接近するにつれ,すくみ現象が出現していた.今回目標物へ接近する際の運動制御がICを付与した目標志向の運動制御で代償できたことがFOGの改善に奏功したと考えられる.今回の結果より,ICを付与した指歩き課題練習がFOGを改善させる一手段となる可能性が示唆された.