第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

神経難病

[OE-1] 一般演題:神経難病 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第6会場 (RoomB-1)

座長:清水 兼悦(札幌山の上病院)

[OE-1-3] 口述発表:神経難病 1パーキンソン病の書字障害に聴覚cueと視覚cueで改善した一症例

鈴木 康子1土佐 圭子1安永 雅美2 (1埼玉県総合リハビリテーションセンター作業療法科,2文京学院大学作業療法学科)

【はじめに】
 パーキンソン病(以下PD)患者の突進や小刻み歩行といった歩行障害の改善には,視覚や聴覚cueが有効であると言われている.以前,土佐らが書字練習で視覚や聴覚cueが有効であると報告していたが,書字障害を訴えるPD患者の有効な改善方法の報告は少ない.今回,特に書字において,震えと続き文字になる現象の改善を希望する症例を担当した.そこで,聴覚cueを用いて,書字練習を実施したところ,改善がみとめられたので報告する.症例には,書面で同意を得た.当センター倫理委員会承認済み(R03-112).
【症例】
 70歳代,女性,右利き,パーキンソン病,罹患歴4年,Hoehn-Yahr重症度分類は1.主訴は,右手が使いづらく字が書けない,書いたものが読めない.上肢機能大きな問題なし,STEF(Rt/Lt)81/99点,握力14/13kg,日本語版Montreal Cognitive Assessment 23点,Barthel Index 90点.BADL・IADLは自立.
 症例は,発症前から日記,メモ,手紙を書くなど,書字を好んで行っていた.しかし,病状の進行と共に書いた文字が判読しにくくなり,書字を避けるようになっていた.
【経過】
  約1ヶ月の入院期間中,OTは1日3単位,週6日実施.訓練目的は書字機能改善とし,読める文字を書けることとした.
 常に使用している罫線入りのノートでは,文字の震えと小字症状,行の末尾は続き文字になり,読み取れない文字になっていた.時に震えにより,線がコントロール出来ていないことがあった.罫線5㎜で,細めのボールペンを使用し,過剰に力を入れて書いていた.
 そこで,筆記具には鉛筆を用いて,横書きで書字練習を行った.書字練習は約30分程度とし,罫線25㎜,メトロノームのリズム(BPM50)に合わせて,「田」「永」等を書く練習を開始した.初日,リズムに合わせて記載した文字は小字症がみられるが,「よく書けている方である」と満足していた.リズムに合わせられなくなったら一旦中止し,再度,リズムに合わせて書くように指導した.4日目,連続して書字を行うと右に下がる傾向があり,結果的に小字症になっていた.一画目を罫線の上の方から開始するように指示し,現象は軽減した.リズムに合わせた書字は,書きやすく,読める文字になることを自覚していた.8日目,罫線5㎜では,文字の震えと小字症状,行の末尾は続き文字になる傾向は残存していた.リズムに加え,横の罫線の上に縦線を引き,視覚cueの使用を提示したところ,続き文字が改善した.9日目,書字の様子を動画で確認したところ,手関節や手指の動きがなく,肩と肘の動きで書字していた.鉛筆の先を動かすように,縦線,円,色を塗るなどの鉛筆操作練習を追加した.20日目,リズムに合わせた書字は改善され,リズムなしでもわずかな小字症現象がみられた他,文字の震えは減少し,指先の動きも見られるようになった.大きな文字であれば,読める文字を書けるようになった.
【考察】
 症例は,病状の進行により文字が崩れ判読困難となり,好んでいた日記や手紙などの作業が億劫になっていることを嘆いていた.土佐らの報告では,書字にも突進現象が生じているのではないかと述べている.本症例も同様の現象にて,聴覚や視覚cueにより改善に至ったと推測される.また,本症例では動画にて書字動作を分析し手関節や手指の動きの悪さを確認できた.PDでは,動作緩慢や筋強剛が手指にも出現し,書字の行いにくさが生じていると考えられる.今後,多くのPD患者の書字動作の分析を行い,文字の特徴とともに改善方法を検討していきたい.