[OE-3-2] 口述発表:神経難病 3症例対照研究による本態性振戦患者における視床熱凝固術後の心身機能変化
【序論】本態性振戦(Essential Tremor; ET)は,姿勢時および動作時振戦を特徴とする神経変性疾患である(Kim et al., 2011).ETの標準外科的治療のひとつに視床中間腹側核(ventral intermediate nucleus; Vim核)に電極を挿入し,高周波で凝固巣を形成して振戦を抑制する熱凝固術がある.術後に振戦以外の症状が一定の割合で出現し,周術期の対応が必要である(Dallapiazza et al., 2019).しかしこれらの症状は定量的に評価されてなく,周術期間の症状の推移も不明である.そのため,熱凝固術後のET患者の振戦以外の症状への作業療法が探索的となり,十分な根拠に基づいた方略が立てられず,退院後の円滑な日常生活や社会参加を妨げる可能性がある.
【目的】ET患者のVim核熱凝固術後の根拠に基づいた作業療法を実施するために本研究では術後の振戦以外の心身機能変化を縦断的に定量的に測定し,その症状の出現と経過を明らかにする.
【方法】対象は,2020年2月から同年12月までに研究協力施設にて振戦軽減目的でVim核熱凝固術を行ったET患者(ET群)とジストニア軽減目的でVim核以外を標的とした熱凝固術を実施したジストニア患者(Dys群)を同様の基準で15名ずつ選択した.対象者には口頭および紙面にて十分説明し研究参加の同意を得ており,研究協力施設および研究機関の倫理審査委員会の承認を得た(21-s001,TPU-20-004) .ET群の振戦は,The Essential Tremor Rating Assessment Scale (TETRAS)を用い評価した.運動症状評価は閉脚開眼時の足圧中心点(COP)変位,Functional Balance Scale,簡易上肢機能検査,握力,10m歩行試験を,非運動機能評価はMMSEと語流暢性課題カテゴリー性(VF-c)と音韻性(VFp)を両群に3回(術前,術後1週,術後1か月)実施した.ET患者のVim核熱凝固術による症状の特徴を検出するためにjamovi (ver.1.6.23)を用いて各評価項目を従属変数,測定時期,群を独立変数,年齢と性別を共変量および参加者をランダム効果とした混合モデルを作成して交互作用および測定時期,群の主効果を算出し解析した(p < 0.05).
【結果】ET群の振戦は,術前と比較して術後1週,1か月ともに有意に改善した(all-ps < .05).測定時期と群の間に有意な交互作用を認めた評価項目は,COP変位 (F = 4.264, p = .019),術反対側握力 (F = 4.7361, p = .013),VF-p (F = 5.064, p = .010)であった.単純主効果の結果,COP術側反対方向への変位(mm)は,ET群の術後1週: 18.3 (SE: 2.9)が,術前: 1.9 (2.9),1か月後: 5.5 (3.1)よりも有意に拡大していた.術反対側握力とVF-pは,Dys群において術後1週間の時期に有意に成績が低下していた [握力(kg); 術後1週: 24.0 (1.4), 術前: 28.6 (1.4), 術後1か月: 25.6 (1.4), VF-p (語数); 術後1週: 8.40 (1.1), 術前: 13.8 (1.0), 術後1か月: 11.1 (1.0)].
【考察】Vim核熱凝固術を行ったET群は,術後1週時のCOPが術側反対方向に変位し,Vim核以外を標的としたDys群では観察されなかった.Vim核は小脳歯状核と一次運動野を接続するcerebellothalamo-cortical networkを形成しており(Gallay et al., 2008),COPの術側反対方向への変位は,cerebello-thalamo-cortical networkと関連したVim核の症状と考えられる.この症状は1か月後には軽減し一過性ではあったが,退院直後の生活を見据え,症状改善期間の短縮を目的とした作業療法が必要であることがわかった.一方,Dys群のみ術反対側の握力およびVF-pの術後の影響を認めたことから,Vim核熱凝固術による影響を受けにくい項目であることが示された.
【目的】ET患者のVim核熱凝固術後の根拠に基づいた作業療法を実施するために本研究では術後の振戦以外の心身機能変化を縦断的に定量的に測定し,その症状の出現と経過を明らかにする.
【方法】対象は,2020年2月から同年12月までに研究協力施設にて振戦軽減目的でVim核熱凝固術を行ったET患者(ET群)とジストニア軽減目的でVim核以外を標的とした熱凝固術を実施したジストニア患者(Dys群)を同様の基準で15名ずつ選択した.対象者には口頭および紙面にて十分説明し研究参加の同意を得ており,研究協力施設および研究機関の倫理審査委員会の承認を得た(21-s001,TPU-20-004) .ET群の振戦は,The Essential Tremor Rating Assessment Scale (TETRAS)を用い評価した.運動症状評価は閉脚開眼時の足圧中心点(COP)変位,Functional Balance Scale,簡易上肢機能検査,握力,10m歩行試験を,非運動機能評価はMMSEと語流暢性課題カテゴリー性(VF-c)と音韻性(VFp)を両群に3回(術前,術後1週,術後1か月)実施した.ET患者のVim核熱凝固術による症状の特徴を検出するためにjamovi (ver.1.6.23)を用いて各評価項目を従属変数,測定時期,群を独立変数,年齢と性別を共変量および参加者をランダム効果とした混合モデルを作成して交互作用および測定時期,群の主効果を算出し解析した(p < 0.05).
【結果】ET群の振戦は,術前と比較して術後1週,1か月ともに有意に改善した(all-ps < .05).測定時期と群の間に有意な交互作用を認めた評価項目は,COP変位 (F = 4.264, p = .019),術反対側握力 (F = 4.7361, p = .013),VF-p (F = 5.064, p = .010)であった.単純主効果の結果,COP術側反対方向への変位(mm)は,ET群の術後1週: 18.3 (SE: 2.9)が,術前: 1.9 (2.9),1か月後: 5.5 (3.1)よりも有意に拡大していた.術反対側握力とVF-pは,Dys群において術後1週間の時期に有意に成績が低下していた [握力(kg); 術後1週: 24.0 (1.4), 術前: 28.6 (1.4), 術後1か月: 25.6 (1.4), VF-p (語数); 術後1週: 8.40 (1.1), 術前: 13.8 (1.0), 術後1か月: 11.1 (1.0)].
【考察】Vim核熱凝固術を行ったET群は,術後1週時のCOPが術側反対方向に変位し,Vim核以外を標的としたDys群では観察されなかった.Vim核は小脳歯状核と一次運動野を接続するcerebellothalamo-cortical networkを形成しており(Gallay et al., 2008),COPの術側反対方向への変位は,cerebello-thalamo-cortical networkと関連したVim核の症状と考えられる.この症状は1か月後には軽減し一過性ではあったが,退院直後の生活を見据え,症状改善期間の短縮を目的とした作業療法が必要であることがわかった.一方,Dys群のみ術反対側の握力およびVF-pの術後の影響を認めたことから,Vim核熱凝固術による影響を受けにくい項目であることが示された.