第56回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-3] 一般演題:神経難病 3

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第5会場 (RoomB)

座長:橋本 弘子(森ノ宮医療大学)

[OE-3-3] 口述発表:神経難病 3軽度パーキンソン病患者の特徴的運動指標抽出に関する研究

赤外線LEDセンサーによる前腕回内回外運動の評価

椎名 義明12平野 大輔1谷口 敬道1 (1国際医療福祉大学大学院作業療法分野,2防衛医科大学校病院リハビリテーション部)

【はじめに】パーキンソン病(以下PD)は,緩徐進行性神経変性疾患であることから病態進行による変化を正確にとらえ,適切な時期に適切な治療方法を選択することが重要といえる.本研究では,非接触にて手の動きを認識できる赤外線LED センサーに着目した.手の動きから客観的・定量的に病態変化が捉えられれば,薬物治療やリハビリテーション治療の効果判定等に活用できる可能性がある.
【目的】赤外線LED センサーにより前腕回内回外運動を測定し,軽度 PD 患者に特徴的な運動指標を抽出することを目的とした.また,その重症度評価としての妥当性を確認するためパーキンソン病統一スケール(以下UPDRS)Part3 との関係を検討した.
【方法】対 象は,日常生活に介助を要しない軽度PD 患者 13 名と健常高齢者 14 名.測定課題は,a.外的ペース運動課題として,モニターに表示した1 秒間に1回旋する前腕回内回外運動に自分の前腕運動を15 周期同期する課題.b.自己ペース運動課題として,3周期同期の後に動画を暗転させ同じリズムで15周期まで継続する課題とした.測定には,Leap Motion センサーとノートパソコンで構成した手の運動測定装置を用いた.運動指標については,まず運動角度から得られる12 指標を定義し,そのなかから軽度PD 患者に特徴的な指標の抽出を試みた.分析方 法は,(1) 軽度PD 患者に特徴的な運動指標の抽出方法として,軽度PD 患者と健常高齢者の間でWelch's t test にて外的ペースと自己ペース運動の課題毎に比較した.(2) 抽出された運動指標について妥当性の確認として,抽出された運動指標について妥当性を確認するため,健常者と 2σ 区間以上の差を認めた運動指標数とUPDRS Part3の得点との間に相関係数を求めた.倫理上の配慮として,国際医療福祉大学倫理委員会,及び防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】(1)a.外的ペース運動課題では,軽度PD 群と健常群間に,全ての運動指標において有意な差を認めなかった.b.自己ペース運動課題では,①回内回外1回旋の時間の平均,② 回内回外1回旋総角度の平均, ③ 回内角度の平均,④ 回外角度の平均,⑤ 回外角度の CV,⑥最大回外角度の平均の 6 指標にて有意な差を認めた(p>0.05).これらを軽度PD 患者の特徴的な運動指標として抽出した.(2)抽出したPD 患者に特徴的な運動指標とUPDRS との関係として,健常群との間に 2σ 区間以上の差を認めた指標の総数(平均 2.9±1.4)と UPDRS Part3の得点(平均 9.1±4.3)との間には強い正の相関関係が認められた(r=0.821).
【考察】軽度 PD 群と健常群の間において,外的ペース運動課題では全ての指標で有意差を認めなかったが,内的ペース運動課題では6指標で有意な差を認め,異なるペース運動課題により運動制御のための異なる脳内基盤が反映されることが判明した.また,それら6つの指標を軽度PD 患者の特徴的な指標として抽出した.次に,その特徴的な6つの運動指標が重症度評価として妥当性があるかを確認し,UPDRSPart3(運動機能) の得点との間には強い相関があったことより重症度評価の指標として活用できる可能性が示唆された.今後の課題として,更に定量的で鋭敏な評価を目指すためには運動指標を増やす必要が感じられた.運動指標の経時的変化を測定することや症例を増やしてデータベース化することにより,PD 患者の運動機能を軽度の段階から定量評価できれば,展望としてはPD重症度の評価に留まらず,まだ診断前で未症状であっても,簡単に手の運動を測定することでPDの素因について検知が可能になるような発展が期待できる.