第56回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-3] 一般演題:神経難病 3

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第5会場 (RoomB)

座長:橋本 弘子(森ノ宮医療大学)

[OE-3-5] 口述発表:神経難病 3パーキンソン病患者における栄養および運動状況の実態調査

山田 麻和1葛島 志保1依田 まゆみ2佐藤 聡3 (1社会医療法人春回会 長崎北病院総合リハビリテーション部,2社会医療法人春回会 長崎北病院栄養科,3社会医療法人春回会 長崎北病院神経内科)

【目的】パーキンソン病(PD)の治療は,薬物療法に加えリハビリテーションの有効性が報告されており,どのHoehn&Yahr重症度分類(HY)においても推奨されている(パーキンソン病診療ガイドライン2018).一方,振戦や筋固縮などで消費エネルギーが高まり,薬の副作用や嚥下機能低下による食事摂取量の減少などにより,栄養障害のリスクの高さが指摘されている(木田ら,2020).栄養障害はADLやQOLの低下に繋がりやすく,栄養状態を把握した上で適切な運動量を提供する必要がある.しかし,在宅生活中のPD患者における栄養や運動状況についての報告は少ない.そこで今回,在宅生活中のPD患者における栄養状態と運動状況の把握を目的に実態調査を行うこととした.
【対象と方法】対象は外来診療にて実態調査への協力を得られたPD患者200名とし,郵送による回答をもって同意を得た.欠損値のない165名(平均年齢72.4±8.0歳,男性73名,女性92名,平均罹病期間6.5±5.0年,HYⅠ/Ⅱ:23名,Ⅲ:105名,Ⅳ/Ⅴ:37名)を分析した.調査項目は,栄養状態(Mini-Nutritional Assessment-Short Form: MNA-SF),運動・身体活動(運動量,Frenchay Activities Index: FAI,転倒不安),QOL(EQ-5D-5L)とした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認(承認番号:21-006)を得た.統計解析は,対象者の栄養状態と身体活動および運動に関する情報について,Spearmanの順位相関係数を用いて関連を調べた.さらに,QOLの維持に影響を及ぼす因子を抽出するためEQ-5D-5Lを従属変数とし,Spearmanの順位相関係数で有意な相関関係を認めた項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.統計解析はSPSSver24を用い,有意水準を5%とした.
【結果】MNA-SFは平均得点10.8±2.5点であり,栄養良好(12-14点)63名(44.7%),低栄養リスクあり(8-11点)61名(43.3%),低栄養(0-7点)17名(12.1%)と半数以上が何らかの栄養障害のリスクを示した.発症後に運動量が減った患者は89名(53.9%)にのぼり,FAIは平均得点20.1±10.4点と半数以上が合計得点(45点)の半分以下と活動性が低下していた.運動および身体機能の関連では,HYとFAI(r=-0.49),EQ-5D-5L(r=-0.61)との間に有意な負の相関関係を認めたが,EQ-5D-5LとMNA-SF(r=0.40),運動量(r=0.51),趣味(r=0.46)との間に有意な正の相関関係を認めた.重回帰分析では,運動量(P<0.001),HY(P<0.001),転倒不安(P<0.001),趣味(P=0.015)がEQ-5D-5Lの有意かつ独立した影響因子であった.
【考察】在宅生活中のPD患者において半数以上が低栄養リスクを抱えており,運動継続者は半数程度と運動の定着率は低く,身体活動の低下割合も高い現状が伺えた.これまでの報告同様,HYの進行とADLやQOLの低下が関連した.一方,栄養状態がよく,運動量や趣味を継続している患者はADLやQOLが高い傾向を示し,栄養指導や運動の推奨を支持する結果を示した.重回帰分析の結果より,運動量や趣味を維持している程,転倒不安が少ない程QOLがあがる関係が認められた.これより,発症早期から運動の習慣化や趣味の継続を促す重要性が示唆された.PDはフレイル・サルコペニアの合併リスクが高いとされ,老化に伴う虚弱状態の回避も重要とされる(吉崎,2017).今後,合併リスクについても確認していく必要がある.
【結語】本調査より,栄養状態がよく,運動や身体活動を継続することでHYが進行してもQOLを保ちやすいことが確認された.しかし,対象の半数以上が何らかの栄養障害または運動量不足の状態であることから,運動と共に栄養指導を行っていく必要性を示した.