[OF-1-5] 口述発表:がん 1脳腫瘍症例の高次脳機能転帰に腫瘍浸潤が及ぼす影響
【背景】脳腫瘍摘出術後に来した高次脳機能障害は術後数ヶ月以内の比較的早期に回復する場合がある一方,慢性期まで残存する場合もある.脳腫瘍のうち,原発性脳腫瘍であるグリオーマは,腫瘍細胞が病変の周囲で正常脳に向かってびまん性に浸潤する腫瘍である.これまでに,グリオーマ浸潤と術後の高次脳機能経過の関連については検証されていない.本研究では,WHOグレード 2, 3グリオーマの腫瘍浸潤が高次脳機能転帰に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,拡散テンソルイメージング画像(DTI)を用いた浸潤評価と高次脳機能転帰の関連を検討した.
【方法】対象は金沢大学附属病院で脳腫瘍摘出術を施行し,6カ月以上が経過した初発グレード 2, 3グリオーマ38症例(平均42.4歳).その内訳は,左病変19例,右病変19例,前頭葉,頭頂葉,側頭葉,島回が各々23, 4, 10, 1例であった.術前DTIより拡散の等方性,異方性を表すp-map, q-mapの異常範囲の差を調べ,高浸潤と低浸潤タイプの2群に分けた.また,病変増大の有無を調べるため術後3ヶ月と6カ月のFLAIR高信号領域比を算出した.評価対象の高次脳機能と使用した検査は,全般的認知機能(Mini-mental state examination),流暢性(Verbal fluency test),注意と処理速度(各々,仮名抹消検査の正答率と所要時間),遂行機能(Stroop test)とした.検査スコアは同年代平均を基準としたZ-scoreに換算した.高次脳機能は術前から術後6カ月まで経時的に評価し,群間,および時系列で比較した.群間の比較にはMann–WhitneyのU検定,時系列の比較にはSteelDwass検定を用いた.なお,本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】低浸潤群より高浸潤群の方が術前腫瘍体積は大きく,摘出率は低かったが(各々,p=0.031, 0.022),6カ月後の病変増大は差を認めなかった.術後6カ月時点で,高次脳機能障害が残存していた割合は,高浸潤群と低浸潤群において各々,全般的認知機能40%,21.4%, 流暢性40.0%,14.3%, 処理速度60.0%,14.3%, 注意 20.0%, 0%,遂行機能 30.0%,10.7%であり,全ての機能において高浸潤群の方が慢性期の障害率が高かった.検査スコアを2群間で比較すると,術前の時点で,注意のスコアは高浸潤群が低浸潤群より有意に低かったが(P=0.022),他の機能については差を認めなかった.また,術後6カ月時点では,処理速度と注意において,高浸潤群のスコアは低浸潤群より低かった(各々p=0.0023, p=0.020).時系列で調べると,処理速度は低浸潤群において術後急性期に低下したが(p=0.040),術後3カ月までに回復した.一方,高浸潤群はいずれの機能においても時系列で有意な変化を認めなかった.
【考察】本研究より,グリオーマ症例の注意と処理速度の機能的転帰には浸潤パターンが影響を及ぼすことが明らかになった.グレード2, 3グリオーマは脳腫瘍摘出術後,比較的早期に社会復帰する場合が多い.注意や処理速度は日常生活というよりむしろ社会生活に影響を及ぼす機能であることから,その転帰を予測した上で術後早期から適切な作業療法介入を行うことは,円滑な社会復帰を果たす上で重要と考える.
【結語】グレード2, 3グリオーマにおける高次脳機能回復について,腫瘍浸潤の影響を受ける機能は処理速度と注意と考えられた.術前画像による浸潤評価により術後6カ月の高次脳機能転帰を予測できる可能性が示唆された.
【方法】対象は金沢大学附属病院で脳腫瘍摘出術を施行し,6カ月以上が経過した初発グレード 2, 3グリオーマ38症例(平均42.4歳).その内訳は,左病変19例,右病変19例,前頭葉,頭頂葉,側頭葉,島回が各々23, 4, 10, 1例であった.術前DTIより拡散の等方性,異方性を表すp-map, q-mapの異常範囲の差を調べ,高浸潤と低浸潤タイプの2群に分けた.また,病変増大の有無を調べるため術後3ヶ月と6カ月のFLAIR高信号領域比を算出した.評価対象の高次脳機能と使用した検査は,全般的認知機能(Mini-mental state examination),流暢性(Verbal fluency test),注意と処理速度(各々,仮名抹消検査の正答率と所要時間),遂行機能(Stroop test)とした.検査スコアは同年代平均を基準としたZ-scoreに換算した.高次脳機能は術前から術後6カ月まで経時的に評価し,群間,および時系列で比較した.群間の比較にはMann–WhitneyのU検定,時系列の比較にはSteelDwass検定を用いた.なお,本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】低浸潤群より高浸潤群の方が術前腫瘍体積は大きく,摘出率は低かったが(各々,p=0.031, 0.022),6カ月後の病変増大は差を認めなかった.術後6カ月時点で,高次脳機能障害が残存していた割合は,高浸潤群と低浸潤群において各々,全般的認知機能40%,21.4%, 流暢性40.0%,14.3%, 処理速度60.0%,14.3%, 注意 20.0%, 0%,遂行機能 30.0%,10.7%であり,全ての機能において高浸潤群の方が慢性期の障害率が高かった.検査スコアを2群間で比較すると,術前の時点で,注意のスコアは高浸潤群が低浸潤群より有意に低かったが(P=0.022),他の機能については差を認めなかった.また,術後6カ月時点では,処理速度と注意において,高浸潤群のスコアは低浸潤群より低かった(各々p=0.0023, p=0.020).時系列で調べると,処理速度は低浸潤群において術後急性期に低下したが(p=0.040),術後3カ月までに回復した.一方,高浸潤群はいずれの機能においても時系列で有意な変化を認めなかった.
【考察】本研究より,グリオーマ症例の注意と処理速度の機能的転帰には浸潤パターンが影響を及ぼすことが明らかになった.グレード2, 3グリオーマは脳腫瘍摘出術後,比較的早期に社会復帰する場合が多い.注意や処理速度は日常生活というよりむしろ社会生活に影響を及ぼす機能であることから,その転帰を予測した上で術後早期から適切な作業療法介入を行うことは,円滑な社会復帰を果たす上で重要と考える.
【結語】グレード2, 3グリオーマにおける高次脳機能回復について,腫瘍浸潤の影響を受ける機能は処理速度と注意と考えられた.術前画像による浸潤評価により術後6カ月の高次脳機能転帰を予測できる可能性が示唆された.