[OF-1-4] 口述発表:がん 1脳腫瘍による右上肢麻痺患者に対し,終末期がん患者に対する作業療法士の実践自己評価尺度を用いた一考察
【はじめに】膠芽腫の5年生存率は10 %程度であり,極めて予後不良と報告がある(日本脳腫瘍登録委員会,2003).そのため,急性期病棟入院中の早期から終末期の視点を念頭においた作業療法実践は重要である.今回,脳腫瘍(膠芽腫)発症後の上肢麻痺により,ADLに介助を要す患者を担当した.終末期がん患者に対する作業療法士の実践自己評価尺度(以下,SROT-TC)を使用し,作業療法を終末期に必要な視点で治療内容を検討・再構築することで,ADLの改善に繋がった症例について報告する.報告に際し,当院の臨床審査委員会に承認を得ると共に症例に事例報告の同意を得た.
【目的】脳腫瘍発症後の右上肢麻痺患者に対し,急性期よりSROT-TCを併用し終末期の視点で取り組むことの一考察を報告する.
【対象・方法】70歳代女性.診断名は膠芽腫.X年1月,利き手である右上肢の随意性低下が出現し,精査にて上記診断.今回放射線治療目的の入院となり,治療と併用しての作業療法を開始した.評価はMMSE,TMT-J, FMA,STEF,MAL,VI,FIMを作業療法開始2,3病日目及び,治療開始後1,5,8週目に実施した.4病日目に生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)にて合意した目標を立案し,治療開始1週間後にSROT-TCにて作業療法実践の振り返りを行った.その後SROTTCは2週間おきに評価し,経過を見ながら症例の状態に併せて必要な作業療法の再構築を図った.
【治療経過・結果】2,3病日目は,MMSEが25点でTMT-JはA,B共に障害域であった.VIは4点で意欲低下があり,ベッド周囲での生活が主体であった.麻痺側上肢機能評価は,FMA上肢項目は50点,STEFは42点,MALはAOU:3.1,QOM:3.3で手指の巧緻性低下があり,使用頻度と質が低かった.FIMは86点(運動項目 59点,認知項目27点),食事は4点で食べこぼしがあり介助を要した.MTDLPを実施し,合意した目標を「食事動作自立」とした.1週間は上肢機能訓練を行ったが,機能の改善が得られず,実行度4点,満足度2点と満足度の低い状態であった.そこでSROT-TCを実施し,患者の希望・意思の尊重の項目の達成感が不十分であったことに着眼した.「箸で食べたい」という訴えを尊重し,食事動作指導を開始した.食事動作では,昼食に5回/週の介入を行い,訴えに合わせて自助具の導入・環境調整中心の作業療法を実施した.介助量が軽減した5週目に,「1人で食べてみたい」「家族に見せたい」等の発言が増えた.再度SROT-TCを実施し,家族に対するアプローチと他職種との協業に関する項目の点数が低いことを確認した.家族アプローチとして,食事風景を動画で撮影し家族に見て頂くなど情報共有を行い,自助具での食事は病棟へ移行した.8週目の最終評価時,MMSE,TMT-Jは著変なく,上肢の機能的な改善もわずかであったが,使用頻度に関しては改善を認めた(MAL:AOU4.3 QOM3.8).FIMは106点(運動項目 79点,認知項目28点)まで改善し,食事は6点と修正自立に至った.VIも10点と向上を認め,実行度9点,満足度9点となり合意した目標を達成し,68日目に自宅退院となった.
【考察】SROT-TCにより,作業療法実践を定期的に振り返ることで,介入に不足している点に気付くことができ,本症例にとって重要である食事動作の獲得や家族との関わりに対し介入することができた.症例の望む作業から段階的に介入することで,成功体験から意欲の向上に繋がり,ADLが改善したと考える.本症例のように機能回復が難しく,予後不良な脳腫瘍患者においても,急性期から終末期の視点で作業療法実践を行うことは,症例に必要な治療方法を早急かつ適切に検討・導入できる可能性があると考察できる.
【目的】脳腫瘍発症後の右上肢麻痺患者に対し,急性期よりSROT-TCを併用し終末期の視点で取り組むことの一考察を報告する.
【対象・方法】70歳代女性.診断名は膠芽腫.X年1月,利き手である右上肢の随意性低下が出現し,精査にて上記診断.今回放射線治療目的の入院となり,治療と併用しての作業療法を開始した.評価はMMSE,TMT-J, FMA,STEF,MAL,VI,FIMを作業療法開始2,3病日目及び,治療開始後1,5,8週目に実施した.4病日目に生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)にて合意した目標を立案し,治療開始1週間後にSROT-TCにて作業療法実践の振り返りを行った.その後SROTTCは2週間おきに評価し,経過を見ながら症例の状態に併せて必要な作業療法の再構築を図った.
【治療経過・結果】2,3病日目は,MMSEが25点でTMT-JはA,B共に障害域であった.VIは4点で意欲低下があり,ベッド周囲での生活が主体であった.麻痺側上肢機能評価は,FMA上肢項目は50点,STEFは42点,MALはAOU:3.1,QOM:3.3で手指の巧緻性低下があり,使用頻度と質が低かった.FIMは86点(運動項目 59点,認知項目27点),食事は4点で食べこぼしがあり介助を要した.MTDLPを実施し,合意した目標を「食事動作自立」とした.1週間は上肢機能訓練を行ったが,機能の改善が得られず,実行度4点,満足度2点と満足度の低い状態であった.そこでSROT-TCを実施し,患者の希望・意思の尊重の項目の達成感が不十分であったことに着眼した.「箸で食べたい」という訴えを尊重し,食事動作指導を開始した.食事動作では,昼食に5回/週の介入を行い,訴えに合わせて自助具の導入・環境調整中心の作業療法を実施した.介助量が軽減した5週目に,「1人で食べてみたい」「家族に見せたい」等の発言が増えた.再度SROT-TCを実施し,家族に対するアプローチと他職種との協業に関する項目の点数が低いことを確認した.家族アプローチとして,食事風景を動画で撮影し家族に見て頂くなど情報共有を行い,自助具での食事は病棟へ移行した.8週目の最終評価時,MMSE,TMT-Jは著変なく,上肢の機能的な改善もわずかであったが,使用頻度に関しては改善を認めた(MAL:AOU4.3 QOM3.8).FIMは106点(運動項目 79点,認知項目28点)まで改善し,食事は6点と修正自立に至った.VIも10点と向上を認め,実行度9点,満足度9点となり合意した目標を達成し,68日目に自宅退院となった.
【考察】SROT-TCにより,作業療法実践を定期的に振り返ることで,介入に不足している点に気付くことができ,本症例にとって重要である食事動作の獲得や家族との関わりに対し介入することができた.症例の望む作業から段階的に介入することで,成功体験から意欲の向上に繋がり,ADLが改善したと考える.本症例のように機能回復が難しく,予後不良な脳腫瘍患者においても,急性期から終末期の視点で作業療法実践を行うことは,症例に必要な治療方法を早急かつ適切に検討・導入できる可能性があると考察できる.