第56回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-2] 一般演題:がん 2

Fri. Sep 16, 2022 1:20 PM - 2:20 PM 第8会場 (RoomE)

座長:田尻 寿子(静岡県立静岡がんセンター)

[OF-2-3] 口述発表:がん 2急性期がん患者にカナダ作業遂行測定と終末期がん患者に対する作業療法士の実践自己評価尺度を用いた取り組み

久村 悠祐1伊藤 光1田中 孝子1泉 清徳1池知 良昭2 (1社会医療法人 雪の聖母会 聖マリア病院リハビリテーション室,2香川県立白鳥病院リハビリテーション科)

【はじめに】がん治療は,治療方針を決める急性期から終末期の視点を取り入れて医療・ケアを行うことが重要である(日本医師会,2006).従って作業療法士は,急性期より終末期の視点を持ちがん患者と関わる必要がある.今回,急性期がん患者に対し,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を用い,患者の望む作業を把握した上で,終末期がん患者に対する作業療法士の実践自己評価尺度(以下,SROT-TC)にて作業療法実践の振り返りを行ない,終末期の視点で治療内容を検討・再構築することの有効性を報告する.報告に際し,当院の臨床審査委員会に承認を得ると共に症例に事例報告の同意を得た.      
【目的】急性期がん患者に対しCOPMとSROT-TCを併用することにより,精神機能,認知機能,QOL及びADL・IADLに与える影響を明らかにする.
【対象・方法】急性期病棟に入院中の80歳代女性.右中葉原発の肺がん(TNM分類:T1N0M0,stageIA3)と診断.放射線治療目的で入院となり,入院3日目から治療と併用しての作業療法を開始した.治療前及び治療後1,3,5週目に,不安・抑うつ(HADS),認知機能(MMSE,MOCA-J,FAB)を評価した.また全身評価として,倦怠感(CFS),QOL(VAS),ADL(FIM),IADL(Lawton IADL Scale)を評価した.開始1週間後にCOPMとSROT-TCを実施し,症例にとって重要な作業を選択し導入した.2週間毎に再評価を行い,状態に合わせた治療の再構築を行った.
【治療経過・結果】開始より1週間は,運動療法(A期)を行なったが,放射線治療開始による精神機能の低下(A期開始HADS:不安4点/抑うつ4点→A期終了:不安7点/抑うつ9点)を認め,QOL(A期開始VAS:5.2cm→A期終了:4.4cm)は低下した.そこで,1週間後にCOPMとSROT-TCを実施し,IADL動作(重要度:入浴準備10点,皿洗い9点,洗濯8点,掃除8点)の獲得を目指した(B期).しかし,B期終了時では,COPMの遂行スコア(B期開始:1.75点→B期終了:6.5点)は改善したが,満足スコア(B期開始:3点→B期終了:4.25点)は低く,QOLは改善しなかった(B期開始VAS:4.4cm→B期終了:4.8cm).そこで,SROT-TCの家族に対するアプローチと他職種との協業に関する項目の達成感が不足していることに着眼し,治療内容を再構築した(C期).家族に贈るアルバムの作成や動画での情報伝達を病棟と協力して実施した.家族や医療スタッフから称賛を得る機会を増やしたことで,「まだ頑張れる」や,「褒められると嬉しいね」などの発言が増え,積極的に治療に参加できるようになった.結果,遂行スコア(C期開始:6.5点→C期終了:8.25点),満足スコア(C期開始4.25点→C期終了:8.5点)は改善し,特に満足スコアの改善は顕著であった.精神機能の改善(C期開始HADS:不安7点/抑うつ9点→C期終了:不安2点/抑うつ3点)やQOLの改善も認め(C期開始VAS:4.8cm→C期終了:7.8cm),ADL(FIM:118点)やIADL(Lawton IADLScale:7点)は自立レベルで認知機能や倦怠感も低下することなく作業療法開始41日目に自宅退院となった.
【考察】今回,COPMによる本人が望む作業の選択とSROT-TCにて終末期の視点で治療内容を検討・再構築することにより,本症例の精神機能は安定しQOLの改善に繋がった.COPMの遂行スコア・満足スコアは,2点以上向上すれば臨床上意味のある向上と言われている(Law M,2006).今回の結果から,COPMとSROT-TCによる作業療法実践は,経過の中で変化するがん患者の状態を早急に捉え,患者に必要な意味のある作業を提供することができるため,急性期がん患者に対する作業療法実践の一助になると考察する.