第56回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-2] 一般演題:がん 2

Fri. Sep 16, 2022 1:20 PM - 2:20 PM 第8会場 (RoomE)

座長:田尻 寿子(静岡県立静岡がんセンター)

[OF-2-4] 口述発表:がん 2手関節背側悪性軟部腫瘍に対して腫瘍広範切除術,手関節固定術,伸筋腱再建術を施行された症例への作業療法経験

藤本 侑大1田宮 大也12鈴木 りえ2藤井 美希1田中 啓之3 (1大阪府立病院機構 大阪国際がんセンターリハビリテーション科,2大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター整形外科(骨軟部腫瘍科),3大阪大学大学院医学系研究科運動器スポーツ医科学共同研究講座)

【はじめに】四肢に発生した悪性骨軟部腫瘍の手術では,患肢温存を目的とした腫瘍広範切除術が施行される.腫瘍とともに周囲の骨や靭帯,腱などの組織を一塊に切除するため,術後の機能障害を呈する場合が多い.術後の機能障害を最小限なものとし,機能的に有意義な治療とするためには,腫瘍切除後の再建や術後リハビリテーションの担う役割が大きい.今回,手関節背側悪性軟部腫瘍に対する腫瘍広範切除術により生じた手関節の不安定性に対し,手関節固定術および長掌筋による伸筋腱移植術を行った症例に作業療法を行い,利き手として実用手の再獲得に至った経験を得たので報告する.なお,本報告に際し,症例には口頭および書面にて説明と同意を得た.
【症例紹介】45歳,男性,会社員(事務職),右利き.右手関節背側の腫脹と疼痛を主訴に当院整形外科を紹介受診.切開生検にて滑膜肉腫(grade2)の診断となり,術前化学療法の後に手術予定となった.術前は,手関節背側腫瘍周囲の疼痛により手関節背屈40°,掌屈30°の関節可動域制限を認めたが,明らかな手指の関節可動域制限はなし(%TAM 母指93.8,示指90.4,中指90.4,環指2.3,小指92.3),握力42kg,STEF100点,BBT55個,DASH(機能障害/症状)24.2点,患側手の実用的な使用は可能であり,ADLは自立していた.手術は,腫瘍広範切除術(手根骨背側半分および橈骨・中手骨の一部,総指伸筋腱・固有示指伸筋腱を合併切除),手関節固定術(手関節背屈位にてプレート固定),同側長掌筋腱移植(総指伸筋腱・固有示指伸筋腱に端側縫合)が施行された.
【経過】後療法は固定法の指示にて,患部外の運動から開始した.また,非利き手でのセルフケアの自立を目指してADL練習を行った.術後1週で自宅退院し,術後3週経過後から段階的に手指の関節可動域訓練を開始した.関節可動域訓練は,PIP・DIP関節の自動・他動屈伸運動から開始し,MP・PIP・DIP関節の同時自動・他動屈伸運動へとすすめ再建伸筋の滑動域の増大を図った.また,右手指での軽負荷の活動として箸操作や書字練習から行い,利き手としての操作性獲得を目指した.術後8週頃には,手指屈曲時のMP関節拘縮にて完全把握困難,他動的な関節可動域制限は認めなかったが自動運動での手指伸展不全を認めたため,筋力訓練や筋力源の増加目的にEMS,腱の滑動域の改善目的に自動運動での物品操作練習を行った.術後1ヶ月から化学療法を再開し,入退院を繰り返しながら作業療法も継続した.術後化学療法終了後の術後4ヶ月で事務職に復職した.復職後も定期的な作業療法評価・訓練を継続し,術後1年まで経過観察を行った.なお,術後1年時点においても,腱断裂などの有害事象は生じていない.
【結果】術後1年時点で,手関節背屈40°(固定),%TAM 母指68.8,示指65.4,中指69.2,環指73.1,小指65.4であり腱癒着等による手指伸展不全を認めたが,握力30kg,STEF98点,BBT55個,DASH(症状/機能障害)38.3点,MSTS76.7%,TESS60.2点,EQ5D5L 0.772であり,利き手として概ね実用的な使用が行えている.
【考察】今回,腫瘍広範切除術後の手関節不安定に対する機能再建として,手関節固定術および伸筋腱再建を施行された症例の作業療法を経験した.他疾患での手関節固定術後成績では,握力50-79%,DASH 25-51点程度と報告されており本症例も同等であった.伸筋腱再建後の癒着による手指伸展不全は残存したが,手関節が機能的肢位に固定され,随意的な手指運動が可能であったため,つまみ操作や十分な筋出力が可能であり,利き手としての実用手の再獲得が行えたと考えられる.