第56回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-3] 一般演題:がん 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第5会場 (RoomB)

座長:下田佳央莉(群馬大学大学院)

[OF-3-4] 口述発表:がん 3センチネルリンパ節生検後の疼痛・不動に対して介入し上肢機能向上を図った症例

伊藤 慎太郎1大木原 徹也1鈴木 真弓1澤田 凱志1牧田 茂2 (1埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター,2埼玉医科大学国際医療センター心臓リハビリテーション科)

【背景】乳がんに対するセンチネルリンパ節生検(以下SLNB)は腋窩リンパ節郭清に比し,少数であるが上肢の肩関節障害を生じる(Rietman JS et al,2004)(Leidenius Mat et al,2003).また,術後の痛みや痛みによる運動への不安は,上肢の使用頻度を減少させ不使用を招く(今井ら,2015年).SLNB後の肩関節障害の原因は疼痛や不動によるものと推測されるが,詳細は明らかでない.今回,SLNB後に左肩関節障害を呈した症例に対し,原因と考えられた疼痛・不動に対して外来作業療法で介入した.結果,疼痛の軽減と上肢使用頻度の向上,それに伴う上肢機能の向上を図ることができたため報告する.尚,症例に対し発表に対する承諾を得ている.
【症例】50歳代,女性.右利き.上肢機能障害を呈する既往歴なし.
【現病歴】X年に左乳癌(cT2N0M0cStageⅡA)に対し,左乳房切除術,SLNBを施行された.退院後の生活で徐々に左肩の疼痛が出現した.X+1年の外来受診時に左上肢の挙上が困難となったため外来作業療法開始となった.
【初回作業療法評価】肩関節Active-ROM(右/左):屈曲150°/90°,外転150°/25°,肩関節外旋55°/10°.疼痛(NRS):安静時5,運動時9.左上肢全体への安静時痛および肩関節運動時に内転・内旋筋群を中心に伸張痛を認めていた.上肢機能はDisabilities of the Arm, Shoulder and Hand(以下DASH)で42点,上肢の使用頻度はMotor Activity Log(以下MAL)で使用頻度3.8点であった.ADL場面では結帯や結髪動作,更衣動作,背部の洗体動作が困難であった.
【介入方針】症例は術後の不動の影響で術側肩の内転・内旋筋群の筋短縮を呈し,肩関節の関節可動域制限を呈していたと考えられた.また,疼痛の影響も加わり左上肢の使用頻度を低下させていたと考えられた.そのため外来作業療法では,疼痛の軽減と関節可動域の拡大に伴う上肢の使用頻度の向上によりADL拡大を図る方針とした.疼痛と関節可動域制限に対しては左肩関節内転・内旋筋群を中心にモビライゼーションとストレッチを実施した.使用頻度の向上に対しては,自主練習としてタオルサンディング,肩関節のストレッチを外来作業療法時に指導し,自宅での実施を促した.外来は週1回の頻度で実施し,自主トレーニングの実施状況はその都度,本人・療法士で共有した.
【中間作業療法評価(介入2か月後)】肩関節Active-ROM(右/左):屈曲150°/90°,外転150°/100°,肩関節外旋55°/45°.疼痛(NRS):安静時4,運動時7.左上肢全体の安静時痛および,内転と内旋筋群の伸張痛は軽減を認めた.上肢機能はDASHで25点,上肢の使用頻度はMALで使用頻度3.8点であった.ADL場面では左上肢で結帯や結髪動作,洗体動作が可能となった.
【最終作業療法評価(介入4か月後)】Active-ROM(右/左):肩関節屈曲150/140°,肩関節外転150/120°,肩関節外旋55/45°.MMT:左右上肢で4.疼痛:安静時NRSで2,運動時で4.疼痛の自制内で日常生活が可能となった.上肢機能はDASHで10点,上肢の使用頻度はMALで使用頻度4.8点と改善した.ADL場面では頭上の戸棚操作,家事動作で左上肢の使用が可能となった.
【考察】不動は関節可動域制限を生じさせ,また不動そのものが慢性疼痛を形成する(沖田ら,2021年).また,乳癌術後の関節可動域練習は,関節可動域の改善,上肢機能の向上につながる(McNeelyMLat el,2010).今回,症例の上肢機能障害の原因と思われた疼痛と不動の改善を図ったことで,上肢機能向上やADL拡大へとつなげられたと考えられた.SLBN後の肩関節機能障害には疼痛・不動に着目した介入が有効と示唆されたが,症例数の増加が今後の課題である.