[OF-4-3] 口述発表:がん 4有茎皮弁と遊離皮弁が頚部郭清術後の肩関節機能に与える影響の比較
【はじめに】頚部リンパ節郭清術(以下,頚部郭清)後には,副神経障害により上肢挙上困難となり,リハビリテーションの実施が推奨される.我々はこれまで,頚部郭清に頭頚部がん切除後の大胸筋再建等の有茎皮弁が併せて行われた場合,採皮の侵襲によって肩関節機能がさらに低下することを報告してきた.現在,再建の方法は遊離皮弁が主流となっており,本研究では,大胸筋皮弁と遊離皮弁が,それぞれ肩関節機能に与える影響の大きさについて比較を行った.
【対象と方法】2013年4月から2021年12月までの間に,当院で頚部郭清後に作業療法を行った患者を,併せて大胸筋皮弁再建を行った23肩(以下,大胸筋群),遊離皮弁再建を行った13肩(腹直筋皮弁8例,大腿皮弁5例)(以下,遊離群),頚部郭清のみ行った54肩(以下,頚部郭清群)に分類し対象とした.術側の肩関節に既往歴のあるもの,頚部郭清にて副神経を切除したものは除外した.術前と退院時に肩関節の屈曲と外転の自動・他動ROMを計測し,その低下量について3群の比較,検討を行った.全例,術後はドレーン抜去後から退院まで肩関節機能訓練を実施した.統計学的分析には,統計ソフトStat Mate3を用いて,危険率5%未満を統計学的有意とし,分散分析及び多重比較(最小有意差法)を行った.本研究の実施にあたり,対象となる症例に研究について説明を行い,了承を得ている.
【結果】各群の術前,退院時の肩ROMと低下量(単位は度,大胸筋群,遊離群,頚部郭清群の順にて,術前→退院時(低下量)の各群の平均値を記載)は,屈曲自動で各群150.4→120.7(29.8),155.0→135.8(19.2),154.6→133.1(21.6)で,外転自動で各群147.6→92.8(54.8),161.9→114.6(47.3),157.1→110.2(46.9),屈曲他動で各群157.2→143.5(13.7),161.2→154.2(6.9),161.2→151.3(9.9),外転他動で各群155.0→112.8(42.2),168.8→140.8(28.1),161.0→136.7(24.4)であった.有意差を認めたのは,屈曲自動での大胸筋群と遊離群,大胸筋群と頚部郭清群,外転他動での大胸筋群と頚部郭清群であった(すべてP<0.05).
【考察】大胸筋再建によるROMへの影響は,屈曲運動では,健常な状態においても挙上に伴い大胸筋が伸長されてブレーキになるとされており1),皮弁による大胸筋の筋短縮や疼痛がそのブレーキを強めると推測される.外転では,大胸筋皮弁による筋短縮や疼痛が,周囲の筋の緊張にも影響し,肩甲帯を前方に引くテンションを高めることで2),頚部郭清後の僧帽筋筋力低下で生じる肩甲骨の内方傾斜角を増大させて,肩のインピンジメントを誘発すると考えられる3).しかし,遊離群では肩関節周囲への侵襲がなく,上記のような影響が無いと予想される.遊離再建は再建に適した構成成分を必要な量だけ採取できる等の利点があり,現在は頭頚部がんの再建方法の主流となっている.今回の結果から,遊離皮弁は肩関節機能に与える悪影響が小さいという特長もあると考えられた.一方,大胸
筋皮弁も比較的短時間で皮弁が挙上でき,手術による負担が小さい等の利点があり,いずれも有用な皮弁再建法とされる.作業療法は,皮弁による肩関節への影響の違いについて理解して実施することが必要である.
【引用参考文献】1)信原克哉(2001).肩-その機能と臨床 医学書院2)建道寿教:Open MRIを用いた肩甲骨面での肩甲骨・肩甲上腕関節の動態解析.肩関節,24:pp259-264.20003)浅野昭裕:整形外科運動療法ナビゲーション 関節機能解剖学に基づく 上肢,整形外科リハビリテーション学会編,メジカルビュー社,2008.66-69
【対象と方法】2013年4月から2021年12月までの間に,当院で頚部郭清後に作業療法を行った患者を,併せて大胸筋皮弁再建を行った23肩(以下,大胸筋群),遊離皮弁再建を行った13肩(腹直筋皮弁8例,大腿皮弁5例)(以下,遊離群),頚部郭清のみ行った54肩(以下,頚部郭清群)に分類し対象とした.術側の肩関節に既往歴のあるもの,頚部郭清にて副神経を切除したものは除外した.術前と退院時に肩関節の屈曲と外転の自動・他動ROMを計測し,その低下量について3群の比較,検討を行った.全例,術後はドレーン抜去後から退院まで肩関節機能訓練を実施した.統計学的分析には,統計ソフトStat Mate3を用いて,危険率5%未満を統計学的有意とし,分散分析及び多重比較(最小有意差法)を行った.本研究の実施にあたり,対象となる症例に研究について説明を行い,了承を得ている.
【結果】各群の術前,退院時の肩ROMと低下量(単位は度,大胸筋群,遊離群,頚部郭清群の順にて,術前→退院時(低下量)の各群の平均値を記載)は,屈曲自動で各群150.4→120.7(29.8),155.0→135.8(19.2),154.6→133.1(21.6)で,外転自動で各群147.6→92.8(54.8),161.9→114.6(47.3),157.1→110.2(46.9),屈曲他動で各群157.2→143.5(13.7),161.2→154.2(6.9),161.2→151.3(9.9),外転他動で各群155.0→112.8(42.2),168.8→140.8(28.1),161.0→136.7(24.4)であった.有意差を認めたのは,屈曲自動での大胸筋群と遊離群,大胸筋群と頚部郭清群,外転他動での大胸筋群と頚部郭清群であった(すべてP<0.05).
【考察】大胸筋再建によるROMへの影響は,屈曲運動では,健常な状態においても挙上に伴い大胸筋が伸長されてブレーキになるとされており1),皮弁による大胸筋の筋短縮や疼痛がそのブレーキを強めると推測される.外転では,大胸筋皮弁による筋短縮や疼痛が,周囲の筋の緊張にも影響し,肩甲帯を前方に引くテンションを高めることで2),頚部郭清後の僧帽筋筋力低下で生じる肩甲骨の内方傾斜角を増大させて,肩のインピンジメントを誘発すると考えられる3).しかし,遊離群では肩関節周囲への侵襲がなく,上記のような影響が無いと予想される.遊離再建は再建に適した構成成分を必要な量だけ採取できる等の利点があり,現在は頭頚部がんの再建方法の主流となっている.今回の結果から,遊離皮弁は肩関節機能に与える悪影響が小さいという特長もあると考えられた.一方,大胸
筋皮弁も比較的短時間で皮弁が挙上でき,手術による負担が小さい等の利点があり,いずれも有用な皮弁再建法とされる.作業療法は,皮弁による肩関節への影響の違いについて理解して実施することが必要である.
【引用参考文献】1)信原克哉(2001).肩-その機能と臨床 医学書院2)建道寿教:Open MRIを用いた肩甲骨面での肩甲骨・肩甲上腕関節の動態解析.肩関節,24:pp259-264.20003)浅野昭裕:整形外科運動療法ナビゲーション 関節機能解剖学に基づく 上肢,整形外科リハビリテーション学会編,メジカルビュー社,2008.66-69