第56回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-4] 一般演題:がん 4

Sat. Sep 17, 2022 2:50 PM - 4:00 PM 第5会場 (RoomB)

座長:小泉 浩平(埼玉県立大学)

[OF-4-4] 口述発表:がん 4選択的頸部郭清術後,副神経麻痺に対する作業療法介入

筋電図評価を用いた治療プログラム再構築

武田 優1白石 匡1田村 友美1端 大輝1東本 有司2 (1近畿大学病院リハビリテーション部,2近畿大学病院リハビリテーション科)

【はじめに】頭頸部がん患者の重要な予後因子は局所リンパ節への広がりであり,頸部郭清術による浸潤的治療が必要とされる.頸部郭清術の合併症の一つに副神経麻痺があり,近年,術後合併症を少なくするため血管や神経,筋肉をできるだけ温存する選択的頸部郭清術(SND)が行われる.しかし,SNDにより副神経を温存しているにも関わらず,副神経麻痺を合併するケースは多い.今回,中咽頭がんに対してSND施行され術後副神経麻痺を呈した症例を担当した.筋電図評価を基に,副神経麻痺に対して長期的な介入効果を得られたため報告する.
【症例紹介】40歳代女性,入院前ADL自立,旅行会社勤務(テレワーク),診断名:中咽頭がんT3N2M0.現病歴:X年Z日,疼痛を伴う口腔内潰瘍を認め精査より中咽頭がんと診断.Z+12日口腔がん切除術(下顎正中離断,右上顎部分切除,右下顎辺縁切除,右ALT再建術,両側SND右Ⅰ-Ⅴ左Ⅱ-Ⅴ)施行.Z+30日退院,Z+54日再入院しRT開始となる.尚,本発表に際して口頭で説明し本人に同意を得た.
【介入経過】OTは2回のタイミングで介入を行った.初回介入は術後の副神経麻痺に対して上肢機能改善を目的に介入.初回評価時,右肩甲帯は外側偏位し前方突出しておりアライメント異常を認め,挙上時には翼状肩甲を伴っていた.passiveROM肩屈曲180°外転180°,activeROM肩屈曲100°(P)外転60°(P)と疼痛を伴っていた.MMT僧帽筋上部4,中部3,下部4であった.2週間介入を行い,僧帽筋のMMTの変化はないが,右肩甲帯の外側偏位,前方突出は軽減,activeROM肩屈曲140°外転90°と肩甲帯アライメント,関節可動域,疼痛の改善を認めた.自主トレーニング指導を行い退院となる.2回目の介入は,Z+54日にRT目的で再入院された際,肩の疼痛及び機能低下を主訴にOT介入を希望され3週間の介入を行った.介入時,僧帽筋のMMTの変化はなかったが,再び右肩甲帯は外側偏位し前方突出位を呈し,activeROM肩屈曲110°(P)外転60°(P)とアライメント,関節可動域,疼痛は前回退院時より増悪していた.
【介入方針】機能維持ができなかった要因を再考すべく,僧帽筋の筋電図評価を行った.肩屈曲・外転時の活動電位の低下は顕著であったが,安静時電位の左右差は認めなかった.つまり,肩関節運動時に副神経麻痺により肩甲上腕リズムが破綻し前方突出を助長しアライメント増悪を来すが,安静時はその要因になりえないことが考えられた.筋電図評価を基に介入方針を立案した.
【介入内容】3週間の介入期間中,僧帽筋の促通運動とともに,肩甲帯アライメントの是正を行い肩関節の可動域拡大,疼痛軽減を図った.自主トレーニングの再指導と,肩甲帯アライメントの増悪を来す生活動作を抽出し環境調整及び肩甲帯サポーターを導入しアライメント維持を図った.
【最終評価】退院時,僧帽筋のMMTの変化はなく,筋電図上も活動電位の改善は認めなかった.しかし,介入時より肩甲帯アライメントの改善を認め翼状肩甲は残存しているもののactive ROM肩屈曲160°外転160°へと可動範囲拡大し疼痛は消失した.退院後,1ヶ月,2ヶ月後の受診時には同様の機能維持できていた.
【考察】副神経温存例の副神経麻痺は,6~12ヵ月程で経時的に改善するとされている.一方,脱神経の改善は認めているにも関わらず,僧帽筋筋力低下,肩関節可動性低下,疼痛が残存している報告が多いのも事実である.リハビリにより副神経麻痺患者の肩関節の機能改善に寄与するとされ,本症例においても同様の結果が得られたと考える.また,筋電図評価を基に再考し,退院後の生活を想定し適切な動作指導を行った事で長期的効果につながったと考える.