第56回日本作業療法学会

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一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

Fri. Sep 16, 2022 2:30 PM - 3:30 PM 第5会場 (RoomB)

座長:星野 藍子(名古屋大学大学院)

[OH-1-3] 口述発表:精神障害 1「Real生活プログラム」に参加する物質使用障害者の治療のニーズや目標に関する報告

山元 直道1古賀 誠2村田 雄一1立山 和久1 (1国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神科リハビリテーション部,2昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】
 国内の物質使用障害領域における作業療法(以下,OT)の多くはアルコール依存症が中心であり,物質使用障害者に焦点を当てた専門的なOTプログラムは希少である.近年では市販薬依存が増加傾向にあり,手厚い精神保健的支援が必要1)と報告されており,物質使用障害者のプログラムの需要が高い.
 当院では,既に物質使用障害者を対象としたSMARPPが実施されているが,適応困難な方もおり,多様なクライアントに対応できるプログラム開発が望まれていた.そのような状況の中で,我々は地域生活を送る物質使用障害者を対象とした外来OTプログラム「Real生活プログラム」(以下,リア活)を開発した.リア活は体験を通じて,自身の健康や回復を考える内容で構成される(週1回12セッション) 2).
 本研究の目的は,リア活に参加する対象者の特徴や生活上のニーズ,プログラムの効果を明らかにし,より効果的なプログラムへと発展させることである.なお,研究実施にあたり,当院の倫理委員会の承認を得た(A2020-087).
【方法】
 本研究の対象は,2018年8月~2020年7月の間にプログラムに参加した44名のうち,参加率30%以上の30名とした.質的データは,クールの開始前後に行う個別面接の内容やセッション中の目標設定であり,診療記録より調査した.リア活が生活に焦点を当てたプログラムである理由から,治療のニーズと生活上の目標をICF(国際生活機能分類)の「活動と参加」と照合し,該当コードに割り当てた.
【結果】
 対象者は男性20人,女性10人,平均年齢は40±9.5歳であった.他精神疾患との重複者は28人(93%)で,統合失調症や解離性障害が多かった.26人(86%)が未就労者であった.全体の68%が継続参加ができており,参加率30%に満たない者も低頻度の継続参加がみられた.
質的データ分析の結果,治療ニーズ68件,生活上の目標132件が抽出された.各上位3項目を下記する.
〇治療ニーズ…セルフケアd570健康に注意する26.7%,一般的な課題と要求d230日課の遂行23.5%,対人関係d720複雑な対人関係19.1%.
〇生活上の目標…セルフケア“d570健康に注意する33.3%,一般的な課題と要求d230日課の遂行20%, 主要な生活領域d845仕事の獲得・維持・終了10.6%.
 治療ニーズは,16名が「やめたい物質をやめるため,欲求をおさえたい」など自己管理や対処が多く,12名が「スケジュールのひとつとして,生活リズムを整えたい」など日課の管理,13名が「仲間との交流」,を述べた.生活上の目標は,17名が「1日3食食べる,落ち着いた生活」など基本的な食事や体調の管理を挙げ,13名が「生活リズムを整える,散歩・運動に行く」など日課の管理を挙げ,14名が「仕事・復職がしたい」など就労への意欲を述べた.
【考察】
 物質依存患者の3~7割は重複障害を抱えている (Zimberg, 1999) .リア活では重複障害が9割と多く,自立生活や就労が困難であり,精神保健的支援を必要としていた.生活上の目標はセルフケアが多く,薬物を使用しない安定した生活を求めていることが読み取れた.参加者は,安定した生活を第一と考えて,次に人との繋がり(Connection)や就労を目指していた.リア活では,生活や健康に焦点をあて,仲間と共に様々な体験を通して回復を目指すことを目的としたOTの醍醐味に基づいた構成である.参加者のリア活の継続的参加は, Connection の補完を行い,地域生活の継続に貢献できたと考えた.
1)松本俊彦.最近の精神科医療における薬物乱用の動向.精神科救急24;70-74,2021.2)村田雄一.薬物依存症治療における作業療法士の試み.新薬と臨牀 69(1): 41-46, 2020.