第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-3] 一般演題:精神障害 3

2022年9月18日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (RoomA)

座長:四本かやの(神戸大学大学院)

[OH-3-2] 口述発表:精神障害 3リワーク支援における「箱づくり法」の有用性の報告

外来OTでのうつ病患者の事例を通して

岩田 夏彦1嶋川 昌典2 (1公益財団法人 豊郷病院リハビリテーション科,2びわこリハビリテーション専門職大学作業療法学科)

(はじめに)
 就労支援実践者が用いる評価の現状報告(大川,2020)によれば,高次脳障害者には機能障害に関する評価が見られる反面,精神障害者に対しては一定の評価法は確立されておらず,対象者へのフィードバックも12例中4例しか実施されていない.精神,発達障害者の就労支援が増加する中,作業遂行面を評価できる作業療法士には具体的な評価技術の確立が求められると考える.このような背景から,滋賀県作業療法士会は数年前から「箱づくり法」の技術講習を積極的に行ってきた.本報告の目的は,研修で技術を身につけた筆者が,発達障害が疑われたうつ病患者のリワークで「箱づくり法」を実施した事例を通し,評価技術の有用性,技術支援の課題を報告することである.発表に際して,本人への口頭文面での説明と同意を得ている.利益相反はない.
(事例紹介)
40代の女性,うつ病.家族は,同じ会社(大手メーカー)の夫と娘.生育上の問題はないが,姉との関係で同胞葛藤を抱いていた.現病歴は,休職する約2年前から職場内の人間関係,場にそぐわない発言が見られ,上司から疎まれ異動を繰り返した.異動後も相手の意図が汲めず,指示通りの行動となり産業医の勧めで精神科病院通院となった.通院中に外来OT(筆者),心理士が介入し,MCTを主軸にし,認知特性による作業遂行上,日常生活,職場での人間関係の気づきを促した.夫は治療には協力的だが,指導的な関わりになることが見られた.
(作業療法評価と介入方針)
 ISDAやSMSFより,復職への不安,焦りは強く見られたが,気分状態は安定していった.MCTは表面的な理解にとどまり,生活上の課題を分析しにくい.フィードバックには腑に落ちない様子があったり,逆に達観した言動をすることが多く,我が身に起こったこととして顧みられない特徴があった.発達障害による影響で自身の行動を振り返れないと考え,「箱づくり法」を導入し,作業場面を共有し,作業上での困難さを共有する経験を通して,具体的な生活課題が検討できる関係性の構築を作ることを目標とした.
(結果)
 「箱づくり法」から,本人が捉える効率的な作り方と他者が捉える効率性とのギャップ,その認識のズレに本人が気づけないことで他者からの指摘に戸惑う面が評価された.また,生活の中で自分は辛さを感じるが,そのことを他者に分かってもらい難く,理解のされなさが悪循環を生み出す傾向を評価した.外来OTは,本人の「しんどさ」を受容し,その過程に気づくようにフィードバックすることとした.本人は,評価をきっかけに,自分が気づけない特徴を支援してくれる作業療法士という認識は持った.復職は,復職先の好意によって配置転換され,職場内で他者が気を使うことで順調に進んだが,本人の課題認識は不十分である為,月一回のフォローアップ支援は継続している.
(まとめ)
本経験から「箱づくり法」の長短所をまとめる.長所は,①対象者の就労や生活のし辛さを構造化して捉えられる.②作業面接を行える.③箱作成という一定の枠組みで対象者を捉える為,他者と情報共有しやすい.よって,観察評価が多い精神科作業療法には評価の妥当性の担保になる.短所は,①サマリー作成に時間を要する.②解釈に一定の技術経験者の支援が必要である.よって,このような技術を訓練する場,バックアップ体制が施設,士会に必要である.