[OH-3-3] 口述発表:精神障害 3うつ病リワークプログラム利用者が使用する単語の変化と休職期間との関係
【序論】
作業療法士は, うつ病による休職者に対するリワークプログラムの中で, 医学的および社会的視点から評価や介入を行い, 重要な役割を担っている (Ramano, 2016). しかし, 休職期間に関わる因子は,矛盾した報告が多く, 結論に至っていない (Ervasti, 2017). さらに, プログラム内での対象者の変化や介入の効果についての報告は少ない. 一方で2000年以降, 精神障害領域においてもテキストデータの量的解析が注目され, 対象者の評価指標の1つとして発展してきた (Pennebaker, 2003). そこで本研究では, 休職期間に関わる因子として, 電子カルテに記載されたテキストデータに着目した.
【目的】
リワークプログラム利用者が使用する単語の変化と休職期間との関係を, テキストデータの解析によって明らかにすること.
【方法】
対象者は, 愛知県にあるAクリニックのリワークプログラム利用者のうち, うつ病または適応障害の診断を有する者, 2017年11月から2020年10月の期間に復職した者とした. ただし, 発達障害の診断を有する者は除外した. また, 対象者からインフォームド・コンセントを得た. データは, 基本情報, 抑うつ尺度 (Beck Depression Inventory-II), テキストを収集した. テキストは, 各対象者の電子カルテへ記載されたものを全て収集し, SOAPに分類, そのうちSのみを使用した. さらに, 手作業による表記揺れ (例: 56, 五十六) の統一, MeCabによる単語への分割, 日本語版Linguistic Inquiry and Word Countによる単語のカテゴリ分類 (社会, 生物, 感情, 知覚, 認知, 動因, 相対性, インフォーマル) を実施した. そして計量化のため, 各対象者のテキストをプログラム開始から2週間ごとに区分し, 各期間における各カテゴリの出現割合を算出した. 統計解析では, 対象者を休職が1年未満の者 (以下, 短期群) と1年以上に及ぶ者 (以下, 長期群) に2群化し, 各カテゴリの出現割合の時間変化を群間比較した.解析手法は, 一般化線形混合モデルを採用し, 目的変数を各カテゴリの出現割合, 説明変数を時間, 群,時間と群の交互作用とし, 切片に変量効果を仮定した. なお, 危険率は5%とした. 本研究は, 発表者らの所属機関における倫理委員会にて承認を得て実施した.
【結果】
対象者は短期群22名, 長期群20名であった. 解析の結果, 交互作用が有意なカテゴリは「社会 (例:子供, 仲間)」,「生物 (例: 睡眠, 食欲)」,「感情 (例: 希望, 動揺)」,「知覚 (例: 刺激, 雑音)」であった.長期群と比較し短期群で「社会」の増加傾向 (p=.006),「生物」の減少傾向 (p=.043) が大きかった. また「社会」(p=.002),「生物」(p=.015) はともに時間の主効果も有意であった.「感情」は短期群で増加, 長期群で減少し (p=.003),「知覚」は短期群で減少, 長期群で増加していた (p=.016).
【考察】
抑うつと他者への関心の乏しさや身体症状の多さは関連している (Brockmeyer, 2015; Segrin,2000). 本研究では,「社会」に関する単語使用の増加や「生物」に関する単語使用の減少という形で, これらの回復が示されたと考えられる. また短期群では「感情」, 長期群では「知覚」に関する単語使用の増加が示された. ここから, 認知行動療法などの内省を促すプログラム (Doorn, 2017) に順応し感情へ注意が向く者と, 休職要因などと向き合う中で感覚へ注意が向く者とが存在し, この差は休職期間と関連していると考えられる. また長期群は, うつ病の背景に発達障害の特性を持つ可能性も考えられる. 本研究では, 休職期間に関わる因子として, 臨床的意義のある結果を示すことが出来たが, テキストの文脈性を考慮していないことに注意が必要である.
作業療法士は, うつ病による休職者に対するリワークプログラムの中で, 医学的および社会的視点から評価や介入を行い, 重要な役割を担っている (Ramano, 2016). しかし, 休職期間に関わる因子は,矛盾した報告が多く, 結論に至っていない (Ervasti, 2017). さらに, プログラム内での対象者の変化や介入の効果についての報告は少ない. 一方で2000年以降, 精神障害領域においてもテキストデータの量的解析が注目され, 対象者の評価指標の1つとして発展してきた (Pennebaker, 2003). そこで本研究では, 休職期間に関わる因子として, 電子カルテに記載されたテキストデータに着目した.
【目的】
リワークプログラム利用者が使用する単語の変化と休職期間との関係を, テキストデータの解析によって明らかにすること.
【方法】
対象者は, 愛知県にあるAクリニックのリワークプログラム利用者のうち, うつ病または適応障害の診断を有する者, 2017年11月から2020年10月の期間に復職した者とした. ただし, 発達障害の診断を有する者は除外した. また, 対象者からインフォームド・コンセントを得た. データは, 基本情報, 抑うつ尺度 (Beck Depression Inventory-II), テキストを収集した. テキストは, 各対象者の電子カルテへ記載されたものを全て収集し, SOAPに分類, そのうちSのみを使用した. さらに, 手作業による表記揺れ (例: 56, 五十六) の統一, MeCabによる単語への分割, 日本語版Linguistic Inquiry and Word Countによる単語のカテゴリ分類 (社会, 生物, 感情, 知覚, 認知, 動因, 相対性, インフォーマル) を実施した. そして計量化のため, 各対象者のテキストをプログラム開始から2週間ごとに区分し, 各期間における各カテゴリの出現割合を算出した. 統計解析では, 対象者を休職が1年未満の者 (以下, 短期群) と1年以上に及ぶ者 (以下, 長期群) に2群化し, 各カテゴリの出現割合の時間変化を群間比較した.解析手法は, 一般化線形混合モデルを採用し, 目的変数を各カテゴリの出現割合, 説明変数を時間, 群,時間と群の交互作用とし, 切片に変量効果を仮定した. なお, 危険率は5%とした. 本研究は, 発表者らの所属機関における倫理委員会にて承認を得て実施した.
【結果】
対象者は短期群22名, 長期群20名であった. 解析の結果, 交互作用が有意なカテゴリは「社会 (例:子供, 仲間)」,「生物 (例: 睡眠, 食欲)」,「感情 (例: 希望, 動揺)」,「知覚 (例: 刺激, 雑音)」であった.長期群と比較し短期群で「社会」の増加傾向 (p=.006),「生物」の減少傾向 (p=.043) が大きかった. また「社会」(p=.002),「生物」(p=.015) はともに時間の主効果も有意であった.「感情」は短期群で増加, 長期群で減少し (p=.003),「知覚」は短期群で減少, 長期群で増加していた (p=.016).
【考察】
抑うつと他者への関心の乏しさや身体症状の多さは関連している (Brockmeyer, 2015; Segrin,2000). 本研究では,「社会」に関する単語使用の増加や「生物」に関する単語使用の減少という形で, これらの回復が示されたと考えられる. また短期群では「感情」, 長期群では「知覚」に関する単語使用の増加が示された. ここから, 認知行動療法などの内省を促すプログラム (Doorn, 2017) に順応し感情へ注意が向く者と, 休職要因などと向き合う中で感覚へ注意が向く者とが存在し, この差は休職期間と関連していると考えられる. また長期群は, うつ病の背景に発達障害の特性を持つ可能性も考えられる. 本研究では, 休職期間に関わる因子として, 臨床的意義のある結果を示すことが出来たが, テキストの文脈性を考慮していないことに注意が必要である.